タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。
【写真】6年半前、小島さんが2人の息子にもらった励ましのグッズの数々
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普段、家事を外注している共働き家庭もあるでしょう。我が家も子どもが小さい頃はそうでした。いろんなサービス会社を試してみて、最終的には決まった担当者にずっとお願いしていました。
その人は他の誰よりも仕事が速くて丁寧で、しかもなぜだかわからないけれど、帰宅してドアを開けた時の雰囲気が違うのです。高級ホテルの部屋に入った時のような、心地いいもてなされ感。物の配置はいつも通りだし、芳香剤をまいたわけでもないのに、家の中に漂う安らぎと清潔な余韻が、家族をふんわりと包んでくれました。
定期的に部屋を掃除してくれる人は遠くに住んでいる家族のような存在。できるだけ掃除しやすいように心がけて暮らす癖がつくので、自然と家の中が片付きます。何かを捨てるときや洗濯カゴに入れるときも「明日は彼女が来るから、やりやすいようにこうしておこう」などと気が働きます。家族がオーストラリアに引っ越してからも、私が東京にいる間は半月に一度、わずか30平米のうなぎの寝床の掃除に来てもらっていました。彼女に来てもらうことはもはや、心の安定のために必要だったのです。
新型コロナウイルスの流行が始まってからは、ごみや洗濯物を介した感染リスクを考慮して、家事は全て自分でやっています。部屋にいる時間も格段に増えたし。でも掃除をするたびに彼女のことを思い出すのです。どれほどこまやかな気遣いで快適な空間を作ってくれていたかを思い、改めて感謝しています。
家事は終わりがなく、人生は散らかしては片付ける無限のループです。部屋の景色は記憶の舞台。隅々まできれいな部屋も、タンスを開けたらカオスの部屋も、物で溢(あふ)れたなじみの部屋も、家族にとっては皆懐かしい。家事は、手掛けた人の気配を住まいに刻む営みなのですね。
小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。『仕事と子育てが大変すぎてリアルに泣いているママたちへ!』(日経BP社)が発売中
※AERA 2020年7月27日号