4月17日、北京中医薬大学王偉副校長は国務院での記者会見で、「清肺排毒湯は新型コロナウイルス感染症の特効薬だと考えている。国内外の研究者が他の治療方法と比較研究することを歓迎する」と述べている。

 日本では、こういった漢方薬は用いられないのだろうか。

「日本ではPCR検査で陽性と診断されたら、隔離されますが、隔離先の大きな病院ではほぼ漢方薬は処方されないでしょう。医療従事者の多くが西洋医学に基づいて診療しており、漢方という選択肢がないからです」(同)

 西洋医学では臨床試験で有効性・安全性を確認できて初めて薬剤の使用が承認される。こうした科学的根拠(エビデンス)に基づく考え方は、新型コロナのような人類が初めて遭遇する感染症に対しては通用せず、遅きに失する可能性がある。漢方は「傷寒」に対して用いられ、西洋医学の対応できない部分に対応したといえる。

 そんななか、日本でも一部の医療者は中国の対応に注目し、清肺排毒湯を処方する医師もいたようだ。日本感染症学会のホームページには、2月以来、新型コロナ感染症に対する中国のガイドラインの日本語訳が掲載されている。そこには清肺排毒湯についても記されている。

 また、5月、日本東洋医学会のホームページに「中国発の新しい生薬製剤使用に関する注意喚起のお知らせ」と題する告知が掲載された。

 その経緯について、日本東洋医学会会長の伊藤隆医師はこう説明する。

「私たちは中国のガイドラインや清肺排毒湯を否定するものではありません。むしろその効果を検討する立場にいます。ただ、実際に中国のガイドラインのやり方を踏襲すると幾つかの問題点があることも確かなのです」

 伊藤医師はこう続ける。

「中国で清肺排毒湯が作られた背景には、急激に増えた患者さんに対応する必要があったからです。可能性のある処方を組み合わせ、目の前の患者さんの重篤化を防ぐため急場をしのぐ目的の処方と言うこともできるのです」

 清肺排毒湯は、日本で常識的に使う5倍程度の分量であること、3日おきに処方継続の要不要を考慮するべきこと、2週間が処方の限度であるということ、この3点を留意しないと安全性を担保できないという。「ですから、経験豊富な漢方専門医や薬剤師のもとできちんと管理して処方するべきなのです」(伊藤医師)

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