「さらに、土砂災害を起こす誘因として雨がある。広島県西部は、南に豊後水道とその先に太平洋があり、そこからの湿った空気が入り中国地方の山々にあたって大雨を降らせ、土砂災害を引き起こします」
だが、広島だけの問題ではない。国土交通省によれば、土砂災害は全国で年平均1081件起き、19年は1996件。都道府県別では、昨年は宮城県が最も多い261件、次いで神奈川県(214件)、鹿児島県(202件)、千葉県(186件)、福島県(163件)と、全国各地で起きている。
7月28日、東北を襲った記録的な大雨で、福島県の東北道で道路脇ののり面の土砂が崩れ、大型トラック1台が巻き込まれた。同25日には、長崎県諫早市の景勝地の遊歩道で観光に訪れた家族3人が崖崩れに巻き込まれ母と娘が亡くなった。連日の大雨で地盤が緩んでいたとみられるが、原因について長崎県の担当者は言う。
「雨で現地調査に入れていないので、詳細はまだわからない」
しかし、防災に詳しい関西大学社会安全研究センターの河田惠昭(かわた よしあき)センター長は、こう指摘する。
「大雨が降れば、傾斜地のある場所はどこでも土砂災害が起こりうる。安全な土質はない」
河田センター長によれば、土石流の規模は、前回発生してからの経過年数と総雨量によって決まる。大雨さえ降れば、50年以上起きていない場所であっても土石流は発生するという。
例えば、18年の西日本豪雨。広島県南部の坂町(さかちょう)小屋浦地区で16人が犠牲になったが、ここでは1907年にも豪雨による土石流で44人が亡くなった。その場所には慰霊碑が建立され砂防ダムも建設されたが、18年の豪雨でダムが決壊し、悲劇は繰り返された。
「今やいつどこで大雨が降るかわからない。過去に土砂災害が起きていない場所や、イエローゾーンに指定されていない場所も危険だ」(河田センター長)
実際、昨年10月の台風21号で4人が死亡した千葉県内3カ所の土砂崩れ現場はイエローゾーンに指定されていなかった。
「もはや土砂災害は避けることができないという前提で、一人ひとりが対策を考えないといけません」(同)
(編集部・野村昌二)
※AERA 2020年8月10日-17日合併号