今年も各地で大雨による土砂災害が発生し、犠牲者が出た。梅雨が明けても、台風やゲリラ豪雨など安心はできない。土砂災害から命を守るために知っておきたいことがある。AERA 2020年8月10日-17日合併号では、土砂災害が起こる土地の特徴などを取材した。
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「崖が崩れて建物が倒壊した。中に人がいます」
7月14日午前5時59分、広島県東広島市消防局に、緊張した女性の声で119番通報があった。現場は、同市河内町(こうちちょう)宇山。住宅が点在する山あいの地域。木造2階建ての1階部分に土砂が流入し、この家に暮らす80代女性と50代男性の親子が亡くなった。
土石流、崖崩れ、地滑り──。近年、列島を襲う大雨の影響で、各地で土砂災害が発生し、犠牲者も出ている。
土砂災害の恐れがある場所には、住民の生命に危害が生じる恐れがある「土砂災害警戒区域」(イエローゾーン)と、住民の生命に著しい危害が生じる恐れがある「土砂災害特別警戒区域」(レッドゾーン)とがある。いずれも土砂災害防止法に基づいて指定されている。
今年3月時点でイエローゾーンは全国に約62万件、そのうちレッドゾーンは約49万件。東広島市の土砂災害現場はレッドゾーンだった。
都道府県別にイエローゾーンを見ると広島県が約4万7千件と最多で、島根県(約3万2千件)、長崎県(約3万件)、長野県(約2万7千件)と続く。
広島に危険な場所が多いのはなぜか。広島は、過去に何度も土砂災害に見舞われた。中でも2018年7月の「西日本豪雨」では、広島だけで約620カ所の土砂災害が発生し、死者は109人を数えた。
広島工業大学の森脇武夫教授(地盤工学)は、二つの素因があると話す。
「まず地形的素因です。広島は中国山地から瀬戸内海まで階段状になっています。階段の平らなところから次の平らなところに下りるところが斜面になっていて、土砂災害が起きやすい素因があります」
2点目は、地質的素因だ。「まさ土(ど)」と呼ばれる花崗岩(かこうがん)が風化した土に原因があるという。
まさ土は西日本に広く分布し、とりわけ広島は県の面積の約半分がまさ土で覆われていると森脇教授は指摘する。まさ土は、乾いている時はある程度強度があり、締め固めると硬い地盤になるため、住宅造成などによく使う。しかし、風化したまま斜面に残っている場合、水を含むと非常に強度が低下し崩れやすい特徴があると話す。