記録が物を言う。その明確な焦点の合わせ方が歴史上の残忍な事実を浮かび上がらせた。原爆で破壊された街、黒く焼け焦げた死体、日常を示す遺品、焼けただれる子供の背中や水を求めて川べりに集まった人々──私も子供の頃に入院した大阪の赤十字病院でケロイドを背中に負う男性に出会った。

 人々が記憶の奥に封印していた情景を描いた絵が強烈に残る。テレビはこうした真実を避けてこなかったか。快いもの愉しいものを追い、真実から目を背けてこなかったか。様々な思いを突きつけられた。

 未公開資料から見えてきたもの、それは記録という事実をできるだけ単純化し、無駄なものをそぎ落とした結果見えてくる真実だ。

 原爆の記録であると同時に、現在進行形の日本の姿を見せつけられる結果となった。

週刊朝日  2020年8月28日号

■ 下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。主な著書に『家族という病』『極上の孤独』『年齢は捨てなさい』ほか多数

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下重暁子

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下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。この連載に加筆した『死は最後で最大のときめき』(朝日新書)が発売中

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