「日本の中学を卒業してから、ロサンゼルスの『パフォーミング・アーツ・スクール』に進学すると、いろんな友達ができたんです。家に泊まったりすると、子ども心に、『ここは危ない地域だ』ってことに気づいたり。ドアが三重で、壁に弾痕があって、たまたま遊びに来たDJが『俺、もう9発撃たれてるから』みたいなことをサラッと言ったりとか。生きているのかいないのかわからない、抜け殻みたいな人もいました。それまで私は、平和な日本で普通に生きてたから、ドラッグをやっている人なんて、見たことはなかったけれど、ロスでは、すぐ身近なところにいろんな問題が潜んでいて、『ドラッグで身を滅ぼすなんて絶対に嫌!』と強烈に思ったんです」
元々が、親に言えないような悪事には、絶対に手を出せない性格。若い頃、鼻ピアスを開ける前に、本当は眉ピアスをしたかったが、妹が父に「お姉ちゃんが眉ピアスしようとしてるよ!」と告げ口したことで、父から直接電話があり、「絶対ダメだぞ」と釘を刺された。
「そのときは、『何で?』って思って泣きました(笑)。でも、父の言うことには逆らえなかったので、仕方なく鼻にして(笑)。祖母からも、『悪いことをしたらバチが当たるよ』と口を酸っぱくして言われ続けたせいか、『誰かを不快な気持ちにすることは絶対にやっちゃいけない』と思い込まされているんです」
ロサンゼルス時代は、学校のゴスペル・クワイヤ(合唱団)で活動するだけでなく、近所の教会のクワイヤにも所属した。そこでは、毎週火曜日に練習、日曜日には本番が待っていた。
「驚いたのは、教会にいるのは真面目な人かと思っていたら、そうじゃなかったことです。お金がない人、罪を犯したことがある人、元アル中、元ジャンキーとか、そんな人が5人くらい、毎週日曜日に泣きながらスピーチをするんですよ。『ドラッグをやめて1年、やっと孫に会えます!』とか言うと、周りの人が一斉に拍手したりして(笑)。とにかく、その3年間に、大人たちの切実な人生をたくさん目の当たりにしたせいか、日本に帰ってからも、事件や犯罪、人種差別とか、そういうさまざまな問題がひとごととは思えなくなったんです」
(菊地陽子 構成/長沢明)
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AI(あい)/1981年、ロサンゼルス生まれ。鹿児島市育ち。2000年、デビュー。05年に「Story」で紅白歌合戦に初出場。以来、計3回紅白に出場。今年11月から20周年記念ツアーを開催予定
※週刊朝日 2020年8月28日号より抜粋