深センが発展し、マネーはシンガポールにも集まっている。その状況で、中国が香港を本当に抑え込もうとするなら、軍隊を派遣する必要はない。北京政府は、香港をこのまま放置し、衰退すればいいと考えているはずだ。
もちろん、中国も変わらざるをえない。
新型コロナウイルスの拡大をきっかけに、中国の人々は習近平国家主席への不満を公言しはじめた。これは、「閉ざされたクローゼットの中にいるつもりはない」という意思表示だ。危機になると、人々はオープンになる。オープンになれば、中国は変わっていく。
中国の共産党一党支配が崩れると、政治が不安定化するという人もいる。だが、中国共産党の弱体化は良いことだ。
米国が20世紀に覇権国になった時も、国内外でいろいろな問題を経験した。10回以上の不況を経験し、街では暴動も起きた。それでも、20世紀では最高の国になった。中国も同じような問題を抱えながら、同じ道を歩むだろう。
中国は、国境線で複数の対立を抱えているが、国際的な戦争は好まない。戦争は自国にとって利益にならないことを、数千年の歴史を通じて理解しているからだ。
今はアジアの時代だ。中国は米国から“パワー”の座を奪う。その客観的事実を理解したうえで、中国を動かしていくことが重要だ。
(取材/朝日新聞シンガポール支局長・西村宏治、構成/本誌・西岡千史、監修/小里博栄)
ジム・ロジャーズ/1942年、米国アラバマ州出身の世界的投資家。ウォーレン・バフェット、ジョージ・ソロスと並び「世界3大投資家」と称される。2007年に「アジアの世紀」の到来を予測して家族でシンガポールに移住。現在も投資活動および啓蒙活動をおこなう
※週刊朝日 2020年8月28日号