TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽とともに社会を語る、本誌連載「RADIO PA PA」。今回は、長塚圭史さんらが企画した子供向け舞台について。
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ステージ上の俳優と彼らを支えるスタッフ、劇場に足を運んだ観客のすべてを抱きしめたくなった。
『イヌビト~犬人~』(新国立劇場)はそれほど高い意志と勇気に満ちた演目だった。
国内外で日々発信される無数のコロナ情報。インフォデミックの中、僕らの心のありようは小刻みに揺れている。守るのは人の命なのか、経済なのか。政府の指針もその場しのぎ。「特別な夏」って何? 首都東京でも出口は見えない。
日常的に鑑賞していた芝居の上演も少なくなった。この世界には親しい友人が何人もいるが、彼らの試行錯誤ぶりは何度もお伝えしてきた。
松たか子、近藤良平、首藤康之、長塚圭史のユニットが子供向けに企画していると聞いた。どんな作品になるのだろう? コロナ禍で一番不安定な日常を余儀なくされているのは子供たちだ。しかし、作・演出は長塚圭史。彼ならやってくれると心に期した。
「どこかの国の、どこかの町。タナカ一家は愛犬とともに、シンプルライフを堪能(たんのう)しようとこの町に引っ越して来ました。ところが町中はどこか殺伐(さつばつ)としています。誰もがマスクで口元を隠し、ソーシャルディスタンスを保ちながらの暮らし。この町にはイヌビト病の感染(かんせん)が広まっていたのです……」
パンフレットには子供向けにルビが振られていた。
いざステージが始まると、一家を守るお父さん(首藤康之)の頼もしい姿といったら! 近藤良平の振り付けがカラフルで、その動きや犬の仕草に子供たちの笑い声も。
コロナ対策で終演後の挨拶は叶わなかったが、圭史とLINEのやり取りができた。
「4月に一度何も考えたくなくなりました。上演するのかしないのかわからない作品について考えるのが嫌になった。美術アイデアをもらって更に(思いが)加速しました。ステキなアイデアがそもそも実現出来ないのに、それについて考えることへの拒絶でした」