ふと周りを見回すと、スーツ姿のサラリーマンたちが多い。

「この人たちはこの後、家に帰ってゆっくり寝るんだろうな」

 そんなことを思いながら、黙々と唐揚げにかぶりついた。

 午後8時過ぎ、登山再開。モニターでバラエティー番組を視聴しながら登り、疲れを紛らわせる。隣ではトレッドミル(いわゆるランニングマシン)で歩いたり、走ったりしている人たちがいる。こんなにも平地の運動をうらやましいと思ったことはないだろう。

 日付が変わった午前0時過ぎ。まだまだゴールは見えない。唯一の楽しみだった息子(生後9カ月)とのテレビ電話も、スマホの電池が切れてしまい断念。テレビ番組も面白そうなものはなく、つらい時間が続く。いつの間にか、フロアにいるのは記者一人になっていた。

 ふと、ある曲を流す。

「さくら~ふぶ~きの~」

 24時間テレビでもおなじみの「サライ」だ。自分のために「サライ」を歌ってくれていると妄想すると、不思議なもので力が湧いてくる。父のことは忘れて寝ているであろう息子を思い、「ゴールで待っててくれ!」と自らを奮い立たせた。

 午前1時、ついに30000段に到達。高さにして6088メートルだ。ようやくゴールが見えてきた。だがペースは明らかに落ちている。最初の10000段に4時間、続く20000段までには5時間、そしてそこから30000段までには7時間もかかってしまった。これ以上ペースが落ちてしまうと、午前8時までに登頂は無理だ。休憩をとるか悩んでいると、苦しそうな記者を見るに見かねてか、夜勤で待機していたジムの責任者が、特別に午前10時までの挑戦延長を許してくれた。

 ここで一度、近くの漫画喫茶で仮眠をとることに。神経質な記者は、普段なら友人の家に泊まっても一睡もできない。だがこの日は脚も伸ばせないような個室で、気絶するかのように眠りについた。

 午前3時ごろ、起床。

「あと30分だけ寝ようかな」

 そんな誘惑を振り払い、再びジムに戻る。もちろんこの時間に運動している人などいない。静かなフロアで、また黙々と登山を再開する。早朝のニュース番組を見ながら脚を動かしていると、いつのまにか外は明るくなっていた。実際の登山なら、日の出に心をふるわせるのだろう。だが、景色の変わらない疑似登山には、日の出など関係ないのだ。

暮らしとモノ班 for promotion
疲れた脚・足をおうちで手軽に癒す!Amazonの人気フットマッサージャーランキング
次のページ
ついにゴール!