食事を含めたのみ込みにかかわる相談は、主治医から適切な専門家を紹介してもらうことができる。また、日本摂食嚥下リハビリテーション学会がホームページ上で、嚥下リハビリ相談窓口のある全国の医療機関を紹介しているほか、歯科医師会や栄養士会などが相談窓口を設けている自治体もある。
■緩和医療を優先する選択肢も
誤嚥を防ぐさまざまな対策をしても、のみ込む力の低下を止められないこともある。とくに重度の脳梗塞で意識障害がある人や、症状が進行していく認知症の人、極端に体力が低下した高齢者などは回復が期待できないことが多い。前出の山本医師は言う。
「抗菌薬を投与して肺炎は良くなったとしてもまたすぐ発症して入院し、入院のたびに状態が悪化して寝たきりになる人も少なくありません。ある程度まで悪化すると、抗菌薬による肺炎治療は『延命治療』になるという意見もあります」
「成人肺炎診療ガイドライン2017」には、最善の治療をしても死が避けられない、あるいはQOLが保持できないと判断される患者の肺炎は、人工呼吸器による管理や抗菌薬を用いた強力な肺炎治療ではなく、緩和医療を優先する選択肢もある──といった倫理面に踏み込む提案が盛り込まれた。本人の意思を十分に尊重した診療方針を医療チームとして決定するべきとの文言も加えられている。
「2013年におこなわれた『人生の最終段階における医療に関する意識調査』では、肺炎にかかった場合に抗菌薬による加療を希望すると答えた人は57%にとどまりましたが、現在、多くの臨床の現場でどのような患者に対しても抗菌薬治療がおこなわれ、症状緩和の視点はほとんどありません。呼吸器専門医だけでなく、医療職を中心にさまざまな人が参加して国民的な議論を深めていくことが必要です」(山本医師)
(文・熊谷わこ)
≪取材協力≫
東京都健康長寿医療センター 呼吸器内科部長 山本 寛医師
横浜市立大学市民総合医療センター リハビリテーション科准教授 若林秀隆医師
※週刊朝日ムック『新「名医」の最新治療2020』より