TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽とともに社会を語る、本誌連載「RADIO PA PA」。今回は、岩合光昭さんについて。
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本誌で『今週の猫』を写真連載している世界的写真家岩合光昭さんとは四半世紀以上の付き合いだ。日本人で唯一『ナショナルジオグラフィック』の表紙を2度飾っている。番組を持ってもらったり、トークショウの時は海外から帰国したその足で駆けつけて下さったり。
そんな岩合さんに久しぶりに会い、夏の東京を、気ままに「猫歩き」した。
「僕は蒲田で育ちました。トンボを追いかけた青果市場の緑が、動物写真家に導いてくれたんです」
銭湯、ストリップ劇場と、蒲田駅前の商店街はどれも友達の家だった。「みんな元気かな? 何しろ数十年ぶりだから」。ファインダー越しに時々の風景を眺めていたように語る岩合さんの言葉はスナップショットのようでも、詩のようでもある。
「昭和30年代です。長屋の都営住宅に住んでいて、父の書斎には西陽が当たって、父の撮った多くの写真が浮き上がっていた」
動物写真家の草分けだった父、徳光さんは毎日新聞のカメラマンだった。ある夜、カマキリの卵が孵化するのを撮るんだとライトを点けて撮影、翌朝息子の岩合さんは自分の布団に無数の子供カマキリを見つけ、ギャーッと叫んだり。
「オーストラリア取材から帰ってくると、『向こうは毎日肉を食っていた』なんて、毎日ステーキ肉を買いに行かされました。父は報道関係だったせいか自宅にはテレビがあり、いつも10人くらい近所のガキがいた。僕は『スーパーマン』が大好きで、風呂敷を首に巻いてお使いに行きました。『お! スーパーマンが来たな!』っておじさんに言われてね(笑)」
大学を出て平凡出版(現マガジンハウス)を受けたが、「ベンガルトラを撮りに行くぞ」と父に言われた日と面接が重なっていた。「インドに2週間いて20秒しか見られなかった。めちゃくちゃ綺麗な猫が影から光へ、光から影へ。素敵なんてものじゃない」とフリーカメラマンへ。一日千枚、人の撮った写真を眺めることから始め、29歳で木村伊兵衛賞受賞、カリブ、スリランカ、アフリカなどで動物を撮影、世界の頂点の写真家になった。