いったい何が起きているのか考えてみた。菅氏は安倍政治を継承するらしいが、実は政策の継承以前に、もっと大事なものを継承したようだ。
安倍政権は長かっただけでレガシーがないと言われるが、実は非常に大きなレガシーを遺している。それは、「官僚支配」と「マスコミ支配」だ。7年8カ月かけて築いたこの二つのレガシーは、安倍一強の基盤だった。菅氏は、そのレガシーを総理就任前から既に継承し、最大限活用している。
政治部記者たちは、菅氏が怖くて菅批判の記事は書けないという。もちろん官僚も同じ。各省庁は既に、菅総理誕生後にどうやって菅忖度政策を提示できるかを検討し始めた。安倍政治の終焉で二つの支配が終わると思ったら大間違い。この二つのレガシーは、安倍・菅の二人三脚で築いたものだ。その意味では、その継承者として菅氏は最も正統な地位にある。
菅総理誕生で、安倍政治を支えた「官僚支配」と「マスコミ支配」はさらに強化されるだろう。暗黒政治の終わりを期待した有権者は、「菅一強」のさらに暗い時代を覚悟しなければならないようだ。
※週刊朝日 2020年9月18日号
■古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。主著『日本中枢の崩壊』(講談社文庫)など