8月29日、俳優の加山雄三さん(83)が、繰り返す嘔吐(おうと)にせき込んで、誤嚥(ごえん)して病院に救急搬送された。検査の結果、「小脳出血」と診断された。
【図でわかる】脳卒中のもう一つの種類、脳梗塞の典型症状とは?
「『重篤』との発表がなかったので、出血の程度が軽くて安心しました」
こう話すのは、日本体育大学保健医療学部救急医療学科長の小川理郎教授だ。小川教授は日本医科大学付属病院高度救命救急センターなどで長年、救急医療や災害医療に携わるなどした指導的立場の救急指導医だ。
「小脳出血では出血量が多いと、重症意識障害を引き起こして、脳幹が破壊される『脳ヘルニア』という重篤化する状態を容易に引き起こします」(小川教授)
小脳は運動を記憶する中枢で、細かい手足の動きやバランス感覚などをつかさどっている。脳全体の約15%と小さく、大脳(後頭葉)の下部、とても狭いスペースにある。
小脳で出血すると、スペースに余裕のある大脳での出血に比べて、深刻な状況に陥りやすい。小脳出血は出血量により、突然に意識がなくなり、直ちに緊急手術で出血を取り除かないと死亡することもあるという。
「ついさっきまで話をしていたのに突然に嘔吐し、意識を失って倒れて死亡する“talk and die(トーク・アンド・ダイ)”に陥ることがあります」(同)
小脳出血は、突然割れるような頭の痛みを覚え、不快感や嘔吐、めまいがあり、体の平衡感覚が保てなくなる。これらの症状の場合、小脳出血であることは間違いない。出血が多いと小脳内にとどまらずに、前方にある脳幹に向かって流れるので、脳幹を破壊してしまう。「血液は、血管の外に出ると神経や組織を破壊するやっかいな“悪者”になってしまいます。頭痛がして、気分が悪くなって、嘔吐すれば、救急車をすぐに呼ぶべきです」(同)
さらに何らかの刺激などが身体に加わって再出血をすれば、ほぼ命が助からなくなるという。小脳出血はいわば“時限爆弾”を抱えているようなものなのだ。