主演映画「ミッドナイトスワン」が、9月25日、全国公開される。自身が「僕の代表作になる」と公言する本作で、複雑な背景を抱える難役に、どう挑んだのか。AERA 2020年9月21日号で、全力で“母”になった1カ月間の撮影を語った。
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喜びとも悲しみとも、一言ではまとめられない衝動。草なぎの心を満たした感情は、作品に折り重ねられた「男と女」「母と子」といったレイヤーの“割り切れなさ”を表しているようだった。
草なぎ剛(以下、草なぎ):脚本を読み終えて、気持ちがこみ上げて涙が出てきたんですよ。でも、そのときの僕は、どうして自分が泣いているのかわからなかった。理由はわからなかったけれど、僕が凪沙を演じることで、僕の胸を強く揺さぶったものを映像にのせて皆さんに伝えたい。そう思いました。
■自分が投影されている
映画「ミッドナイトスワン」の主人公・凪沙は、新宿のショーパブで働くトランスジェンダーの女性だ。男性の肉体を持ちながら、性自認は女性であることを親に伝えられないまま、都会の日陰に身を隠すように暮らしている。ある日、彼女のもとに親からネグレクトを受けている親戚の娘・一果がやってくる。凪沙は養育費目当てに一時保護を受け入れるが、一果と衝突を繰り返す中、彼女が抱える深い孤独と密かな夢を知ることになる。やがて凪沙には「母になりたい」という願いにも似た感情が芽生え始める。
草なぎ:凪沙はいろいろなコンプレックスや葛藤を抱えていて、ずっと自分を許せないまま生きてきたんだと思います。一果と出会って、「母になりたい」という夢ができたことで、救われていく部分があった。本物の母親に近づこうともがいて、身も心もボロボロになっていくんだけれど、それでも凪沙は幸せを感じていたと思うんです。その純粋な思いに、きっと僕は胸を打たれたんだと思います。
脚本を読んだときも、撮り終えてインタビューを受けている最近も、なぜ自分が最初に泣いたのか、実はわかっていなかったんです。いま、話していて気づきました。撮影から9カ月経って、ようやく自分のなかで整理できてきたのかもしれません。