凪沙を演じることに、意外にも気負いは感じなかった。
草なぎ:確かに難しい役でしたし、ほかの俳優さんは自分と役柄の共通点を探したりして役作りをされるのかもしれません。でも、凪沙に限らず、僕はそういうアプローチはしないんです。演じることの面白さは、自分とは全く共通点のない人物を演じたり、わからないものを表現したりすることにあると思うので、むしろかけ離れていたほうが思い切って演じられます。だから、いまでも凪沙のことを全然わかっていないのかもしれません。
一方で、僕が演じる役には、どんな役にもどこか自分が投影されています。そういうスタイルでやらないと、ぼくは演じきれない。だから、きっと僕は役者じゃないんですよ(笑)。
役って自分一人じゃなくて、みんなが作ってくれるものだと思っています。共演者だけでなく、衣装さんやメイクさんとか、大勢の人の力があってようやく作品の中に一人物を存在させることができる。そういう関係性の中で自然と生み出されるものなんじゃないかなって。
今回は、凪沙というキャラクターをスタッフが本当に愛してくれて、愛情を受け演じることができました。現場はいつも一期一会ですが、本当に奇跡の起きている作品だと思っています。
■フルスイングのビンタ
撮影では、一果役の服部樹咲(はっとりみさき)に大きな刺激を受けた。
草なぎ:樹咲ちゃんは新人さんで演技経験がなく、内田英治監督から演技指導を受けていたんです。でも、本番が始まると、言われたことを全部自分の中で消化して、完全に一果になってぼくの前に立っているんです。存在の説得力がすごかった。樹咲ちゃんから往復ビンタを食らったような気持ちでした。「うまく演じてやろう」みたいな下心を見透かされて、「何言ってんだ!」って、頬をフルスイングで(笑)。それで僕も焦っちゃって、逆に無になれた。やっぱり演技って、その瞬間その人になることが大切で、経験や技術だけじゃないんだなって改めて思いました。