認知症や高齢者の心の問題に詳しい順天堂大学名誉教授で、アルツクリニック東京(東京都千代田区)院長の新井平伊さんによると、コロナ禍でも家に閉じこもらず人との交流を続けることが、うつ病や認知症の予防につながる。SNSやオンラインの習い事で刺激を受けるのもいいが、大切なのは本人がその取り組みを楽しむことだという。
「よくあるのが、高齢の親を心配した家族が『健康にいいから』と脳トレや運動などを勧めるパターンです。実は、善意であっても、人に強制されてやらされるのは苦痛でしかないのです」
そうはいっても、コロナで遠方の祖父母や高齢の親に長期間会えなければ、心配になる。
「電話やメールでもいいので、連絡を取って『大切に思っているから心配している』と家族だからこその愛情を伝えてください。まずは、ご本人が元気を取り戻すこと。運動や趣味を再開したり、外出をしたりしようかなと思ってもらえるようなアプローチが必要です」
東京都健康長寿医療センター研究所で、社会参加と地域保健研究チームのリーダーを務める藤原佳典さんも、コロナ禍でシニア世代が健康を保つポイントは、習い事でもボランティアでも仕事でも、社会参加活動をやめないことだと訴える。
「高齢者の場合、いちど活動団体が解散したり、本人が仕事や活動を停止したりした場合、復帰するケースは少なくなります。よほどの気力や体力を持って『戻る』という意思が本人になければ、大半が面倒になり自宅にこもりがちになってしまう。コロナで重症化しやすいリスクを持つ高齢者が、外での活動を怖いと思うのは正常な感覚です。しばらく自宅で過ごすシニアの方は、復帰という目標や仲間との約束に向けて、自主トレーニングや充電期間だと考えてほしいのです」
コロナ禍で活動をやめて何もしない生活が続くと、どうなるか。
参考になるデータがある。藤原さんの研究チームが2008年から6年にわたり、公共交通機関の使用や買い物、食事の用意など、日常生活に問題のない健康な高齢者1023人を対象に行った追跡調査の結果だ。