清武英利さんの最新作『サラリーマン球団社長』(文藝春秋、1600円)は、プロ野球界が舞台のノンフィクションだ。サラリーマンから、球団社長、取締役になった人物を描く。清武さん自身も新聞記者という業界の素人から、球団代表になった経験がある。この本に込められた思いを聞いた。
* * *
阪神タイガース、広島東洋カープの躍進の陰には球界とは無縁の人物の奮闘があった。清武英利さんの新刊はその二人を主人公にしたノンフィクションだ。かつて読売新聞の記者から読売巨人軍の球団代表になった清武さんは、自分と同じようにサラリーマンから球団社長、取締役になった二人に注目した。
「会社から出向を命じられて球団というまったく縁のないところに行くわけです。そこでは短期的な勝利を求められる。しかし、改革をしようとすると敵が増える。あなたならどうする、と読む人に問いかけたかった」
主人公の一人は阪神電鉄の旅行部門から出向して阪神の球団社長になった野崎勝義さんだ。日本球界で初めて選手のスカウティングシステムを作った。
もう一人の鈴木清明さんは東洋工業(現在のマツダ)からカープに転職して初めは“何でも屋”。そして、選手育成制度に力を入れた。
壁にぶつかりながらも改革に挑んだ二人の姿を、清武さんは徹底した取材をもとに描いている。
「野崎さんは旅行マンで球界に染まっていないし、鈴木さんは経理マンだったから常識的なんです。異業種の人だからできることがある。気骨と、素人に何ができるんだと言う業界のプロに立ち向かうことが大事なんです」
野崎さんはいつでも提出できるように辞職願を用意し、鈴木さんは不眠にも悩まされた。彼らの奮闘は星野仙一監督のもとでの18年ぶりの阪神リーグ優勝、黒田博樹投手のカープ復帰と25年ぶりのリーグ優勝に結実した。