その解釈が正しいのかどうかはわからない。個人的には、昨年も紀子さまは同じ気持ちだったのではないかと想像している。娘の気持ちを尊重したいという母親としての素朴というか純粋というか、そんな感情。それをはっきり表しただけのことのように思うのだ。

 皇室をウォッチしている一人として振り返るなら、紀子さまへのバッシングは雅子さまの調子が上向くにつれ増えていった。先述したように、雅子さまと紀子さまは対比的な存在だ。皇室という場所で自己実現ができず、「適応障害」という病を得た雅子さま。その姿から紀子さまを見れば、「過剰適応」に見える。公務に子育てに励む紀子さま。その姿から雅子さまを見れば、「怠けている」という批判も出てくる。

 この対比は、紀子さまが皇室にとって41年ぶりの男子となる悠仁さまを出産したことでより複雑になった。最近はそこに、眞子さまのお相手・小室圭さんの「借金」問題が加わった。これが報じられて以来、一部のメディアにとって秋篠宮家は「消費してよい」存在になり、その最前線に立たされているのが紀子さまではないかと思う。

 そのような事態に対し、紀子さまは一つの姿勢を示した。それが今年の誕生日の文書回答だったと思う。それは、54年という人生で培った「実力」と「自信」を背景に、己というものを率直に国民に語りかけていくという姿勢。それは実にまっとうで、とても強い戦略でもある。そんなふうに思っている。(コラムニスト・矢部万紀子

AERA 2020年10月5日号より抜粋

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矢部万紀子

矢部万紀子

矢部万紀子(やべまきこ)/1961年三重県生まれ/横浜育ち。コラムニスト。1983年朝日新聞社に入社、宇都宮支局、学芸部を経て「AERA」、経済部、「週刊朝日」に所属。週刊朝日で担当した松本人志著『遺書』『松本』がミリオンセラーに。「AERA」編集長代理、書籍編集部長をつとめ、2011年退社。同年シニア女性誌「いきいき(現「ハルメク」)」編集長に。2017年に(株)ハルメクを退社、フリーに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』『美智子さまという奇跡』『雅子さまの笑顔』。

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