Kが言った。「こんなにおにぎりばかり……無理ですよ」。ちょっとキレ気味に。こいつはなにを言ってるんだろう。現代っ子か!? 女神はイラッともせずに「これは気がつかんで……ちょっくら唐揚げでもこさえような……」と立ち上がろうとしたので必死で止めた。「いえ! もう十分頂きましたので! ホントご馳走様でした!!」
私はこれ以上ないくらいの最敬礼をして女神の家を出た。「失礼だろ!」。たしなめるとKは「あれは妖怪だよ。お婆さんのカタチをした『おもてなし』だ。妖怪おもてなし。ほっとくと調子に乗っていくらでも出てくるぞ」。
その後、適当な民宿に素泊まりし、特別面白いことはなかった。私は如才なく『おもてなし』の住所を控えておいたので後日、御礼状を書いた。すると速達で返事が来て、なかにはKの無礼を糾弾する怒りの文言が殴り書きで綴られていた。差出人を見ると「高橋◯◯」としてあった。秋がくると毎年思い出す。
春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。YouTube 「春風亭一之輔チャンネル」ぜひご覧ください! アーカイブもいろいろあります
※週刊朝日 2020年10月9日号