信長のそばにいた弥助が命を奪われなかったことを「神に感謝した」とイエズス会宣教師のルイス・フロイスは書簡に書き残した。本能寺の変の5カ月後のこの記述が、弥助に関する往時最後の記述とされる。
「その後、弥助はイエズス会宣教師の護衛になったか、船員になった可能性もありますね」
そうロックリーさんは推測する。
弥助は本能寺の変の重要人物であるかもしれないが、歴史上の人物としては地味な存在だ。ただ、「戦国時代の外国人侍」だけに、NHKの大河ドラマには一度ならず登場している。1992年放送の「信長 KING OF ZIPANGU」、96年の「秀吉」、2014年の「軍師官兵衛」だ。
では、「麒麟がくる」には弥助は登場するのだろうか、小和田さんに尋ねてみた。
「どうでしょうね。まあ、仮に知っていてもお話しはできませんね。そこは見てのお楽しみにしていてください」と微笑んだ。
そのうえで、弥助は「主人公としてドラマができるくらい」強い存在であると続けた。
光秀は信長の家臣となり、信長は天下取りに邁進(まいしん)していく。これから迎える「麒麟がくる」の佳境で「弥助はくる」のか。
戦国時代、異国の主のために命をかけ、敵将に命を救われた弥助。その数奇な運命に、記者の関心は引き寄せられる。折しも米国では構造的な人種差別に抗議する「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命も大切だ)」運動が続く。人種の壁とは何か。今昔の影を見つめていると、そんな問いが浮かんでくる。(本誌・鮎川哲也)
※週刊朝日 2020年10月9日号