病理学者である森先生は1千例を超える病理解剖をして、適度な治療が施された後に死を迎えた遺体の内臓は「美しい」と目に映るのを知りました。病理解剖学的に「美しい遺体」とは節度のある医療の結果として生まれるのだというのです。さらにこう続きます。
「私は実は、節度のある医療とは同時に品位ある医療であると考えております。そしてこれは、単に狭い意味での医学・医療の面からみて適切であるばかりでなく、患者の人間としての尊厳が守られることにも通じるものであります」「身体の中に秘められている自然の力による治癒を側面から助けると共に、その人生の最終段階においては自らに運命づけられた自然の死を助けるのもまた、医療のもつ役割でありましょう」
森先生は「美しい死」をもたらす「品位ある医療」は、医学的力量、人間的教養、品位を持った医師によってなされるともおっしゃっています。
どんな死に方でもいいというのは達観した考え方ではありますが、医療者としては、患者さんに「美しい死」を迎えてほしいと思います。
帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中
※週刊朝日 2020年10月9日号