50年に及ぶ格闘人生を終え、ようやく手にした「何もしない毎日」に喜んでいたのも束の間、突然患った大病を乗り越えてカムバックした天龍源一郎さん。2月2日に迎えた70歳という節目の年に、いま天龍さんが伝えたいことは?今回は「秋」をテーマに、飄々と明るくつれづれに語ります。
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秋といえばやっぱり食欲の秋かな。今ごろの季節になると思い出すのは、田舎でよく食べていたアケビだね。近所の九頭竜川の川岸には野生のアケビがなっていて、それをよく採って食べていたもんだよ。バナナのような甘さでね、子どもの頃は衝撃的なおいしさだったね。すごく種が多くて食べづらいけど、今でも好きな果物だ。
最近はいろいろな人から、季節を問わず果物を贈ってもらえることが多くなったけど、先日もジャンボ鶴田の実家の農園からブドウをたくさんもらったよ。昔はお中元やお歳暮は酒ばっかりだったけど、小脳梗塞をやってからいただくのはほとんどが果物になった(笑)。幸い、お茶やせんべいはまだ贈られて来ないが、これらが贈られてくるようになると、俺もいよいよおじいちゃんだな! 今度は縁側のある家に引っ越しだ。
あと、好物といえばローストビーフ。これは一年中あるものだけど、食欲の秋ということでね。ローストビーフは脂身と血の滴るような赤身の部分がすごくうまいよねぇ。今ではバイキングやビュッフェに必ずあるけど、俺が20歳くらいの頃はまだ珍しくて、東京・三宅坂にローストビーフの店で初めて食べて以来の好物だね。あるホテルで、一般のお客さんに交じって相撲取り60人くらいで食事をしたことがあったんだけど、みんなローストビーフの列に並んで、補充しても補充しても相撲取りが知らん顔して食べちゃうんだ。いや、あのときは他のお客さんに悪いことをしてしまったね(苦笑)。
相撲時代の秋の食べ物で思い出すのが新弟子時代のサンマだ。俺がいた二所ノ関部屋では秋になると部屋の前の道路に炭火焼き用にブロックを並べて、網を敷いて、新弟子がサンマを200匹くらい焼くんだ。すごい煙が立ってね、今だったら苦情が来て絶対できないことだけど、そうして焼いたサンマは、実は思い出の“味”ではないんだ。相撲取りのちゃんこ(食事)は序列が上の順から食べるもんで、炭火で焼いたサンマは旨いからね。兄弟子たちもどんどんおかわりして、俺たち新弟子が食べる順番がきたときにはサンマはすっかり無くなっているんだよ。