ところが、世の中に癒しという言葉が広がり、いわゆる「癒しブーム」が起きると、癒しが本来持っていた主体性が失われてしまいました。癒しがいつの間にか、受け身で使われるようになり、「癒し=癒される」となってしまったのです。

 私が敬愛する宗教学者の山折哲雄さんは、その風潮に警鐘を鳴らすために「『癒し』は『卑しい言葉』だ!」という論を展開し、こう言いました。

「いま『癒されたい、癒されたい』と叫んでいる人々には、あまり生命力を感じられません。(中略)本当に傷を治そうとするならば、『癒し、癒し』と叫ぶことなしに、自分の生命力を軸にして、それを治すべきでしょう」(『本当の「癒し」って何!?』、共著、2000年、ビジネス社)

 癒しは受け身のものではないのです。「自然治癒力を原点に、自らが癒す」ということを忘れないでください。

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

週刊朝日  2020年10月23日号

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