「真凜選手は、華やかさと滑りの質の高さが非常にある選手。滑りが滑らかで美しくて、流れがある。そこに『力強さ』が加わればさらに良いと思います。他の選手の中に入っても消えない個性の強さみたいなものが出てきたら、もっと彼女は伸びていくと思います」
演技構成点の中の『スケートの技術』や『トランジション(つなぎ)』には確かな伸びを感じさせる、と村主さんは言う。次のステップに踏み出すときがきているようだ。
「あえていえば今は『キレイでとってもいいですね』で終わってしまうような魅力です。今後は曲の解釈を掘り下げたり、音楽の理解を深めたりして、プログラムを自分にしかできない一つの作品として仕上げることができれば、さらなる高みに行けるのではないかと。そうなれば唯一無二の存在になれるというか、彼女らしさがもっと出せると思います」
作品としてプログラムを仕上げる大切さを村主さんが語るにはワケがある。
村主さんは1996年、世界チャンピオンになったミシェル・クワン(米)のプログラム「サロメ」に引かれ、「人ってこんなに(演技で)変われるんだ」と驚いた。自分もそんな演技がしたい。クワンが師事する振付師のローリー・ニコルさんに指導を仰ぐことになる。表現の幅を広げて2002年ソルトレーク五輪、06年トリノ五輪で連続入賞を果たし、33歳の2014年まで息の長い現役生活を続けた。
「スケートは舞台の世界と同じ。スケーターは女優さんと同じ。セリフがないだけ」と語ってきた村主さんは現役引退後も「表現をする」ことにこだわり、写真集を出したこともある。2年前から暮らすラスベガスでは映像の仕事を始め、プロデューサーとして映画製作を行う。振付師と二足のわらじを履く村主さんは、真凜が飛躍するために必要なのは「心に残る作品をいかに作るか」だとして、こうアドバイスを送る。
「『あっ、本田真凜、がらっと変わったね』と思わせるような滑りのイメチェンが必要です。ジャンプとかスピンといった技ではなく『必殺のキャラクター』です。『真凜ちゃんのあの時の演技が忘れられない』と人々の心に残るような作品を作ってほしい。まだ19歳、諦めずに頑張ってほしい。この『諦めずに』が大事です」
(本誌・大崎百紀)
※週刊朝日オンライン限定記事