日本学術会議の会員任命拒否で大揺れの菅義偉新政権。今、その菅政権の命綱となっているのが「改革」の旗印だ。
ただし、「改革」と言ってもいろいろだ。1980年代の改革は、民営化と規制緩和中心だった。サッチャリズムに代表される経済最優先、効率・生産性・競争重視の政策だ。日本も80年代以降この流れに遅れまいと中曽根康弘政権が国鉄民営化などの大改革を進め、その後も橋本龍太郎政権の省庁大再編、さらに小泉純一郎政権の郵政・道路公団民営化などの大きな改革が続いた。
しかし残念ながら、第1次安倍政権以降は残された重要な改革が実行されないまま放置されている。先週号で指摘したコメの減反廃止を含む農業改革もその一例だ。
一方、現在は、貧困と格差の拡大が社会の分断を生み、地球温暖化対策も差し迫った課題だが、単なる自由化・民営化路線では解決不能だ。
今日本に求められている改革は何か考えてみた。それは「真の先進国になるための改革」と言えばよいのではないか。そのキーワードは「二つの優しさと一つの厳しさ」だ。
第一に「人に優しい」改革。企業優先から労働者優先への転換だ。北欧では、スウェーデンのボルボやサーブ、フィンランドのノキアなど、その国の看板企業が苦境に陥っても簡単に国が助けることはなかった。最低賃金や労働条件の引き上げで企業が困って倒産しても放置する。巨額の補助金で企業を助けることはしない。失業者には失業手当に加え、大学での無料教育などのリカレント教育でよりよい職場への転職を支援する。
第二は「自然(地球)に優しい」改革。経済優先から環境優先への転換だ。石炭火力を廃止。大手電力優遇の制度も廃止する。中国より劣る自動車排ガス規制や欧州諸国よりはるかに緩い住宅省エネ基準を抜本的に強化する。「規制強化」は、経済の足かせではなく、新たな産業を生み、成長の起爆剤であり、ポストコロナの成長のカギは「グリーン」が担うと考える。残念ながら菅政権にはこの哲学がない。
三つ目は「不公正に厳しい」改革。格差・既得権・法執行の不完全性を排除する改革だ。