テレビ番組の取材でアメリカのカリフォルニア州サンディエゴを訪れたニュースキャスターの辛坊治郎氏。マリン関連商品だけを商う巨大ショップで、なぜ日本経済が低迷したのかが見えたという。
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店の棚に無造作に並べられた茶筒ほどの大きさの商品は船舶用のイーパブ。万一の遭難の際に、衛星を使って遭難者の位置情報を当局に通報する装置だ。
日本では、2馬力を超えるエンジンを持つすべてのプレジャーボートには厳しい船舶検査が義務付けられていて、航行できる区分ごとに、様々な法定備品の搭載が義務付けられている。たとえば「遠洋」の船検をパスするためには、認定品のイーパブ、国交省の認定証の付いた救命ボート、高価な無線装置など、数百万円の費用が必要になる。
アメリカでは、客を乗せて商売をしようとしない限り、この種の義務はない。船に乗る人々は、イーパブなどで自主的に自らの命を守る努力をするのが当然とされているのだ。
それなら、アメリカで売られている安価なイーパブ(3万円ほど)を日本に持って帰って設置したらどうか? 残念ながら、これは不可能だ。日本で法定備品として使えるのは、国の検査をパスした物のみで、電波法もそれ以外の使用を許さないのだ。
使えない商品を誰も売ろうとはしないし、メーカーも開発しない。がんじがらめの法規制によって、新製品の開発は防げられ、流通が阻まれ、消費拡大の道は閉ざされる。
(週刊朝日2013年2月1日号「甘辛ジャーナル」からの抜粋)
※週刊朝日 2013年2月1日号