帯津良一(おびつ・りょういち)/帯津三敬病院名誉院長帯津良一(おびつ・りょういち)/帯津三敬病院名誉院長
※写真はイメージです (GettyImages)※写真はイメージです (GettyImages)
 西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱する帯津良一(おびつ・りょういち)氏。老化に身を任せながら、よりよく老いる「ナイス・エイジング」を説く。今回のテーマは「ホメオパシー」。

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【不合理】ポイント
(1)理にかなわない事象の代表であるホメオパシー
(2)私はホメオパシーの有効性を実感している
(3)医学知識なしにはホメオパシーを使うべきでない

『まだ科学で解けない13の謎』(草思社)という本があります。英国の科学ジャーナリスト、マイケル・ブルックス氏が現在の科学では説明ができない13の事柄を取り上げて、解説しています。ブルックス氏は「理にかなわない事象こそが、理にかなわないがゆえに重要なのだ」と語り、そこから世紀の大発見が生まれるのだと説きます。

 その最終章で取り上げられているのが、「ホメオパシー」です。「明らかに不合理なのになぜ世界じゅうで普及しているのか?」というサブタイトルがついています。

 ホメオパシーはドイツ人の医師、サミュエル・ハーネマン(1755~1843)によって体系化された治療法です。原料は自然界の物質で70%が植物。これをアルコール溶液で希釈して、仁丹の大きさほどのピルに吹き付けます。これを口内で溶かして、口腔(こうくう)粘膜から吸収させるというものです。

 ところが、問題になるのが希釈の度合いです。原料をどんどん希釈して、1分子も入っていないレベルにしてしまうのです。当然のことながら、「1分子も入っていない液になぜ効果があるのだ」という疑問が上がります。つまり、現在のところ、ホメオパシーの効果は科学的に説明できないのです。

 ホメオパシーが日本以上に普及しているヨーロッパでは、ホメオパシーを巡る論争が盛んに行われました。前述の著書に詳しいのですが、世界的に権威がある学術雑誌「ネイチャー」や医学雑誌「ランセット」もホメオパシーに関する論文を取り上げています。

 
 日本でも、ホメオパシーが問題になったことがあります。しかし、残念なことに日本では科学論争というより、ホメオパシーを断罪するというものでした。きっかけは、2009年に起きた乳児の死亡事件です。ビタミンK欠乏症の生後2カ月の女児がビタミンK2シロップを与えられないことで死亡しました。助産師がホメオパシーの錠剤をシロップの代わりにしていたというのです。この事件は親が助産師を訴える訴訟になりました。

 私はがんの患者さんにホメオパシーを処方しています。その有効性は20年の経験を踏まえて実感しています。ですから医師、歯科医師、薬剤師を会員とする日本ホメオパシー医学会もつくりました。現在は無理でも、将来にはホメオパシーの原理が科学的に解明されることを願っています。

 私は「理にかなわない事象」であっても、それが患者さんのためになるなら利用すべきだと考えています。ただし、それは西洋医学、東洋医学、様々な代替療法を踏まえた上でのことです。ビタミンK欠乏症などは西洋医学が最も得意とする分野です。しっかりした医学知識を持たずにホメオパシーを振り回すことは戒めなければいけません。

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

週刊朝日  2020年10月30日号