岡田:そうおっしゃってくださる方もいれば、嫌って言う方もおられるのが世の中ですから、いいことだけじゃないというか。
林:それが有名人になるということですよ。先生はそもそもなんで感染症学をおやりになったんですか。ふつう女性はやらないんじゃないですか。
岡田:男社会ですよね。女性は非常に少ないです。20年前、こういう感染症の流行に対して日本はまだまだノンキでした。私、ドイツに留学してますが、ドイツの研究仲間から「日本人は島国で、ペストの大流行も経験ないから、感染症には不感症だよね、地震には敏感でも」と言われて、確かにそうかもと思ったんです。これからグローバル化でどんどん人が交流することを考えると、日本も感染症にノンキでいられない。それで、「もし感染した人が飛行機で入ってきたら、高速大量輸送の日本ではこんなふうに一気に広がりますよ」というシミュレーション小説(『H5N1─強毒性新型インフルエンザウイルス日本上陸のシナリオ』)を10年以上前に書いて、それが「NHKスペシャル」の「感染爆発」というドラマになったりしたんです。
林:そうなんですか。知りませんでした。岡田先生って、このコロナで急に出てきたように思ってましたけど、実は10年以上前から警鐘を鳴らしてきたんですね。
岡田:私、ペンは剣より強しと教えられて。本は100冊以上書いています。デビュー作は03年の『感染症とたたかう』という岩波新書で、新型インフルエンザとかSARS(重症急性呼吸器症候群)のことを書きました。
林:すごくカワイイ絵本も書いてらっしゃいますよね。
岡田:絵本は15冊ぐらい、小学校以下ぐらいの本だと50冊くらいかと。これから成長していく子供たちに生きる力を養う教育としてやっていきたいな、と思って、いろいろなアイデアで作っています。昨年はNHKラジオで「室井滋の感染症劇場」というラジオドラマの脚本と監修もしました。今年はマンガで新型コロナの病気と予防を私が校長先生になって教える感染症スクールも描いてみました。感染症を理解してもらえたら、偏見も差別もなくなるかなと思ったんです。この冬は流行や医療がどうなっているか心配ですけれど。
(構成/本誌・松岡かすみ 編集協力/一木俊雄)
※【岡田晴恵、サカナクションに共感「いつも『あおり』って言われる」】へ続く
岡田晴恵(おかだ・はるえ)/共立薬科大学(現・慶応義塾大学薬学部)大学院薬学研究科修士課程修了、順天堂大学大学院医学研究科博士課程中退、医学博士。厚生労働省国立感染症研究所研究員、アレクサンダー・フォン・フンボルト奨励研究員、日本経済団体連合会21世紀政策研究所シニア・アソシエイトなどを経て、現在、白鴎大学教授。専門は感染免疫学、ワクチン学。著書に『人類vs感染症』(岩波ジュニア新書)、『感染爆発にそなえる──新型インフルエンザと新型コロナ』(共著、岩波書店)など。
※週刊朝日 2020年10月30日号より抜粋