さらに、「家族や友達と縁を切って、山口から東京に出てきたんで」と自分語りを挟み、これまでの突撃動画の武勇伝なども語っていた。だがこの時は別のテーマで取材をしていたため、これらの話はほとんど気に留めなかった。
最後には「記事に俺の名前を出してくださいよ。俺、名前出したいんで」と持ち掛けてきたが、売名につながりかねないため、「YouTuberとして生計を立てている台東区の28歳男性」としてコメントを掲載した。
ただ、取材時のへずまの様子は、動画とは明らかに違っていた。終始、敬語を使って受け答えをする。落ち着いた物腰で、動画のような狂気も一切感じられない。「暇なんで、いつでも聞いてください」と取材に協力的な姿勢をみせていた。自己主張が強めの、街によくいる若者という印象だった。
取材を終え、これからパチンコ台に戻るのかと問うと、「チャンスがあれば、道端で誰かに凸ろうかと思ってます」と笑顔を向ける。そうしてパチンコ店の前でたたずんでいた姿が記者の目に焼き付いている。
一方で、画面の向こうで悪行を繰り返すへずまは取材時と同一人物とは思えないほどで、「悪役を演じているのでは」という印象を受けた。オンとオフをはっきりと使い分けていて、おそらく取材時は「オフ」だったのだろう。
その後、へずまはスーパーで魚の切り身を会計前に食べたとして、7月11日に愛知県警に窃盗容疑で逮捕された。自身がコロナ感染者だったことも判明し、少なくとも山口県で3人、愛知県で8人に感染させたとして世間から大きな批判を浴びた。さらに10月16日、大阪・アメ村で購入したTシャツが偽物だと店に難癖をつけたなどとして、大阪府警南署に威力業務妨害と信用毀損の疑いでも再逮捕された。
多くのYouTuberが正当な手段で視聴者を楽しませている中、へずまは迷惑行為を繰り返し、「嫌われ者」への道をまっしぐらに突き進んだ。彼を駆り立てるものは何なのか。「ヒールでもいいから、世間の耳目を集めたい」という安易な承認欲求だとすれば、その行為はあまりに幼稚だったというほかない。
(取材・文=AERA dot.編集部・飯塚大和)