しかし、独裁的な体質を持つ自民党保守派から見れば、自分たちの政策に異を唱える機関など許されない。
第三者の意見を聴くというアリバイ作りのためなら、息のかかった委員による審議会や有識者会議を利用すれば十分だ。彼らにとって、日本学術会議は百害あって一利なしの機関なのだ。
安倍政権時代に築き上げたマスコミ支配と官僚支配によって、学術会議潰しの環境が整ったと菅総理は考えているのかもしれない。本音を隠すことによって身を潜めてきた自民党の好戦的右翼層がついにその仮面を脱いで平和主義の転覆と基本的人権の抑圧に向けて堂々と動き出している。この動きを放置すれば、民主的選挙で独裁政権が生まれるかもしれない。
一般の人々が自分は学者じゃないから関係ないと思っているとしたら大きな間違いだ。すぐに身の回りでも同じことが起きていることに気付くことになるだろう。日本の平和主義・民主主義は戦後最大の危機を迎えている。その象徴が今回の事件だ。あの時声を上げておけばと後悔しないように、私たちはもっと危機感を強め、日本学術会議とともに声を上げなければならない。
※週刊朝日 2020年11月6日号
■古賀茂明(こが・しげあき)/古賀茂明政策ラボ代表、「改革はするが戦争はしない」フォーラム4提唱者。1955年、長崎県生まれ。東大法学部卒。元経済産業省の改革派官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官などを経て2011年退官。主著『日本中枢の崩壊』(講談社文庫)など