介護の現場では、簡単な運動と笑いを結びつけて取り組むところも多い。
大阪府門真市の介護サービス事業所や社会福祉協議会などが連携する「ゆめ伴(とも)プロジェクトin門真実行委員会」は、認知症になっても社会に出て輝ける場を作ろうと活動している。コロナ禍で始めたのは「おうちde笑おう!プロジェクト」。外出自粛で人との関わりが減ってしまった高齢者に笑顔になってもらおうという試みだ。動画配信もする笑いヨガはそのうちの一つで、笑う体操にヨガの呼吸法を取り入れた。実行委員会代表で、笑いヨガの講師資格も持つ角脇知佳さんは言う。
「手拍子に合わせながらや、握手しながら『ハハハ』と笑います。難しいポーズなどは必要ありません。いきなり笑ってくださいというのが難しければ、『は』をたくさん発するのでもいいです」
吐き出すように「は行」を声に出し、横隔膜を動かすだけでも違うそうだ。室内を歩く際や散歩などで、歩調に合わせて「ホッホ、ハッハ」と言ってみる。うその笑いでも脳が「楽しい気分だ」と勘違いし、前向きになれるのだという。それが本物の笑いにつながる。
「笑顔を作るということが大事で、最初は形から入ってもいい。習慣を作ることで、日ごろ喜怒哀楽が薄い方でもすごく笑えるようになって、声が出るようになります」
実際に、笑いの効果を実感する日々だという。
角脇さんによると、住宅型施設に入居する70代後半の女性は、元々話し好きだったのに、コロナ禍で外出禁止になると会話が一言二言で終わるようになった。それでも、笑顔を意識してもらうことで徐々に変化が見られたという。
また、デイサービスに長く通所する人たちで、ADL(日常生活動作)の能力が落ちていない人は、よく笑うという。
ゆめ伴プロジェクトでは折り鶴や川柳なども勧め、集まった作品を市役所などに飾る。同委員会総合プロデューサーの森安美さんは意図について説明する。
「コロナ禍で高齢者の方々は、極度の不安を感じていてピリピリしています。ただでさえ認知症になると笑うことがなくなりがちなのに、人と会うことも難しくなった。みんなと目標を共有した共同作業をすることで、家にいても社会とつながっているという実感が持てるのではと考えました」
そうした活動は高齢者を支える家族にも好影響を与えている。デイサービスに行けなくなった母親を抱え、息が詰まってしまった家族が、笑いヨガの動画を一緒に見たことを機に前向きになれたという。角脇さんは言う。
「ほかにも認知症の人がスタッフとしてもてなす『認知症カフェ』という取り組みでは、当初家族は心配していても、本人が楽しそうにやっている姿を見て希望を持てたそうです。楽しい空気を家の中で醸し出すのは大事だと思います」
(本誌・秦正理)
※週刊朝日 2020年11月13日号より抜粋