スプートニクVの特徴は、新型コロナの遺伝子を人の細胞に侵入させる「ベクター」として、ヒト由来のアデノウイルス(呼吸器や目、泌尿器などに感染症を起こす原因になるウイルス)を使っている点だ。ガマレヤ研究所では1980年代からアデノウイルスを材料にした研究を続けており、これまでもエボラ出血熱やMERS(中東呼吸器症候群)に対するワクチン開発に成功してきた実績がある。ガルージン大使が続ける。

「こうした安全性の実績からも、諸外国で開発中のワクチンと比べてもスプートニクVは優位性があると私どもは確信しています。人間の体に最も受け入れられやすい人間のアデノウイルスを材料にしているからです」

■日本での現地生産可能

 WHO(世界保健機関)によると、10月下旬現在、臨床試験に入っている新型コロナワクチン候補は44種類で、そのほか154種類が前臨床段階にある。P3段階にあるのはロシアのスプートニクV、米国のファイザー、ノババックスなど4社、中国がシノファームら3社(4種類)、英国(アストラゼネカ)とドイツ(ビオンテック)の各1社で計11種類だ。

 日本ではバイオベンチャーのアンジェスがP1からP2への移行段階、塩野義製薬や第一三共など4社はまだ前臨床段階で、アストラゼネカとファイザーなど米国の3社が日本への供給や現地生産を計画している。

 スプートニクVに関してはインド、メキシコ、フィリピン、ブラジル、インドネシア、サウジアラビア、アラブ首長国連邦など30カ国以上が輸入に関心を示し、ロシアは技術移転や現地生産を提案しているという。

「地球的ともいえるコロナ危機を克服するためには国際社会の共同努力が求められます。輸出だけでなく契約を結んで現地生産することもできるし、技術移転と臨床実験を行うなど多岐にわたる協力の用意があります。単に輸出で儲ければいいという問題ではありません」

 こう述べたガルージン大使は、日本に対する協力ビジョンにも言及した。

「米英と協力している日本にとっても、輸入先を多元化することが望ましいのでは。来年の東京五輪を成功させるためにも、ロシアのワクチンが潜在的なリスクを下げることにつながると思います。もちろん日本の当局が安全性と有効性を確認したうえで、輸出にも日本での現地生産にも対応できます」

(編集部・大平誠)

AERA 2020年11月9日号より抜粋