古賀茂明氏
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日本学術会議問題で苦しい答弁の菅首相(c)朝日新聞社
日本学術会議問題で苦しい答弁の菅首相(c)朝日新聞社

 ご存じだろうか。

【写真】学術会議の任命拒否に深く関わっているとされる官邸官僚はこの人

「日本学術会議が、犯罪者を会員候補に推薦した場合でも、菅義偉総理は任命を拒否してはならない」ということを。

 いくら何でもそれは「常識」に反すると思う人も多いだろうが、その「常識」は間違っているということを説明しよう。

 日本学術会議法第7条第2項と同法第17条には、日本学術会議が優れた研究又は業績がある科学者の中から会員候補を選考して内閣総理大臣に推薦し、その推薦に基づいて内閣総理大臣が会員を任命すると書いてある。推薦の条件は、「優れた研究又は業績がある科学者」だけで、「犯罪者を任命するな」とは書かれていない。また、これまで政府は、丹羽兵助総務長官が1983年に「学会のほうから推薦をしていただいた者は拒否はしない、そのとおりの形だけの任命をしていく」と述べた法律の解釈を一貫して守ってきた。これを前提にすれば、犯罪者であっても総理は任命拒否できない。

 独立性を有する組織などについて、そのメンバーの任命を制限したい場合は、内閣の恣意的な選別を避けるために、具体的な欠格事由を法律に書くのが普通だ。例えば、カジノ管理委員会の委員も内閣総理大臣が任命するが、禁錮以上の刑に処せられた者などは任命できないと法律に書いてある。一方、学術会議にこうした規定はない。

 そもそも殺人犯を学術会議が推薦するなどということは想定できない。現実に問題になるのは、違憲だと考えられる法律に違反して刑に処せられた場合だ。例えば、集団的自衛権の論文を書くにあたって、特定秘密保護法に違反して特定秘密の情報を入手したことで刑に処せられた場合がこれに当たる。法律は違憲で、しかも、入手情報が国民の安全にかかわる重大な内容だったら、むしろ称賛すべき功績ではないか。

 あるいは、今後、集団的自衛権を行使して、アメリカと一緒に日本が戦争に参戦する場合に、戦争批判や敵国礼賛の言論に制限を課す法律ができるかもしれない。それが違憲であっても、政府は学者を訴追し、「犯罪者」の烙印を押す。「犯罪者」は会員に任命できないということを法律に書いていないにもかかわらず、政府が任命拒否の理由にできれば、学問の自由は大きく侵害される。

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