この料理を、魚の王様・マダイや、同じ回遊魚のマグロで作ってもおいしくないのはご存じでしょうか?
マダイで作るとブリほど出汁が身の中に“しゅまなく”て、やや淡白な味に。マグロだと身が固くなって、あのなんとも言えない絶妙な食感にはならないんです。
マダイはブリなどと違って回遊せず常に同じような環境の中にいるため、身の中に脂があまりありません。したがって出汁の中で煮ても、出汁が身の中に“しゅんで”いかないんです。
マグロは脂もたっぷり蓄えているので”しゅみ“そうですが、マグロやカツオなど長距離を回遊する魚の身は赤身が多いですよね。赤身の中には、熱すると固くなるたんぱく質の成分が多く含まれていて、そのために身が固くなってしまうんです。
ブリの中でも寒ブリは、脂をたっぷり蓄えていることに加えて、マグロやカツオほど長距離を回遊しないので、身が赤身ではないことが、ブリ大根がおいしい秘密なんです。
このように、調理法によっておいしく食べられる魚とそうでない魚はありますが、お寿司だと、マグロもマダイもブリもそれぞれの味わいを感じられ、おいしく食べていただけますよ。
くら寿司では毎年、期間限定で、大間のマグロや旬の脂が乗った寒ブリのお寿司を販売しています。今シーズンも順調に準備が進んでいますので、ご期待ください。
その他にも、産卵のために生まれ故郷の川へ戻ってくる鮭や、逆に、遠くマリアナ海溝付近で産卵するために、やはり数千キロを旅するウナギなどの例もあります。
これらの魚も回遊魚と言いますが、産卵回遊と言って、マグロやカツオなどと違って、一生のうちで一度だけ、産卵のために数千キロの旅をするんです。
筆者は、鮭やウナギの産卵について考えるとつい、子供の頃にテレビで観ていた「母をたずねて三千里」を思い出してしまうんですが、ちょっとシチュエーションは違いますよね。でも本能とはいえ、自分の子孫を残すために命がけで数千キロの旅をするなんて、けなげで強いですよね。
○岡本浩之(おかもと・ひろゆき)
1962年岡山県倉敷市生まれ。大阪大学文学部卒業後、電機メーカー、食品メーカーの広報部長などを経て、2018年12月から「くら寿司株式会社」広報担当、2019年11月から、執行役員 広報宣伝IR本部 本部長
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