ベストセラーとなった『サラダ記念日』から33年。歌人の俵万智さんがコロナ禍を詠んだ歌を収録した最新歌集について、作家・林真理子さんと語り合いました。
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林:お久しぶりです。今日はお住まいの宮崎からお越しいただいたんですね。ありがとうございます。
俵:実は7カ月ぶりの東京なんです。
林:私、俵さんのこと「万智ちゃん」なんて呼んでますけど、もう還暦に近いんでしたっけ?
俵:もうすぐ58歳です。
林:ひょえ~。でも顔も変わってないし、ぜんぜん老けてないし、万智ちゃんだけ時間が止まってる感じ。短歌の大家となっても、お母さんになっても。
俵:大家なんてとんでもない。でも、息子はもう高校2年生です。
林:今度『未来のサイズ』という歌集を出されたんですね。コロナについては、いろんな文学者がこれから記録していく必要がありますが、俵さんも短歌でコロナの今を記録されてるなと思いましたよ。
俵:ありがとうございます。詠まずにはいられなくて。
林:たとえば「トランプの絵札のように集まって我ら画面に密を楽しむ」。これはZoom(オンライン会議システム)ですよね。Zoomという非常に無機的なものが、「トランプの絵札のように」っていう表現がすごくおもしろい。確かにZoomをやってると、トランプみたいに画面が並べられて、何かを占っている気がして、さすがだなと思いました。
俵:トランプからそんなふうに発想していただけたら、作者冥利に尽きますね。
林:「朝ごとの検温をして二週間前の自分を確かめている」も深くうなずきました。そうか、今の私たちって、2週間前に何をしたかを考えるクセがついてるんだと思って。「コロナ」なんて言葉、どの歌にも書いてないんだけど、2020年を的確に切り取ってますよね。「第二波の予感の中に暮らせどもサーフボードを持たぬ人類」もそう。ほんとにそのとおりだと思いました。
俵:ワクチンとか特効薬というサーフボードを持っていれば、次の波が来ても乗りこなせるんだけれども、それを持たないまま、私たちは第2波の予感の中にいる時間が長く続いている……ということを詠みました。サーフボードの短歌は、宮崎にいるということがあるかもしれない。波って聞くとサーフボードを連想してしまうから。