林:ほぉ~。かと思えば、(歌集のページをめくりながら)えーと、どこだっけ……。
俵:たくさん付箋をつけていただいてうれしいです。
林:これこれ! 「離着陸終えた君との物語羽田エクセル東急の窓」なんていうのもあって、これ、どう見たって「やっと会えた」という感じの歌だから、万智ちゃん、ちゃんと恋愛もしてるんだと思って安心しちゃった(笑)。
俵:ふふふ、そこは抜かりなく(笑)。ときめきは歌にとってとても大事なものですから。
林:わぁ~、やっぱり。誰かがうまいこと言ってましたよ。恋愛事件を起こす女性はたいてい歌人で、俳句をやってる女の人はわりとさっぱりしてるから、恋愛事件を起こす人はあんまりいないって。たしかに俳人では鈴木真砂女さんぐらいですよね。
俵:いや、私、べつに事件起こしてないですからね(笑)。でも、短歌体質、俳句体質ってあるのかしら。確かに歌人では林さんがお書きになった柳原白蓮とか……。
林:その前に東北大学の石原(純)博士といろいろあったあの人……。
俵:原阿佐緒ですね。あと、中城ふみ子とか。
林:そうそう。私が『白蓮れんれん』を書いたとき、白蓮と宮崎龍介の手紙を全部見せてくださったんですよ、白蓮のお嬢さんが。
俵:あれは貴重でしたね。
林:その中に、白蓮が「原阿佐緒程度でこんなに世の中が騒いでいるなんて、私たちだったらどんな騒ぎになるかしら、と九条武子さまと話しています」と愛人の宮崎龍介に書いて送った手紙があったんです。私、それで白蓮が人間的に好きだなと思っちゃったんですけど、白蓮とともに「大正三美人」の一人と言われた九条武子にも愛人がいて。
俵:白蓮も九条武子も、私が入っている「心の花」という短歌の会の大先輩なんです。
林:俵さんもちゃんと恋愛して、歌人の流れを汲んでるんですね。
俵:でも、今はなかなか大恋愛が成立しづらい時代でもありますよね。恋愛における障害があまりないから。
林:でも不倫がこんなに厳しくなってくると、不倫というのはけっこう障害になってるかもしれない。
俵:芸能人の方とかお気の毒ですよね。
林:なんか、ひとごとのようですね(笑)。
(構成/本誌・松岡かすみ 編集協力/一木俊雄)
俵万智(たわら・まち)/1962年、大阪府生まれ。早稲田大学第一文学部を卒業後、国語教師に。86年、「八月の朝」で角川短歌賞を受賞。87年、第1歌集『サラダ記念日』を出版、翌年、現代歌人協会賞を受賞。同作は280万部を超えるベストセラーに。2004年『愛する源氏物語』で紫式部文学賞、06年『プーさんの鼻』で若山牧水賞。『オレがマリオ』『チョコレート革命』など著書多数。最新刊は、『未来のサイズ』(KADOKAWA)。現在、宮崎県在住。1児の母。
>>【後編/俵万智、短歌でホストや高校生とつながる「若い人のリズム感ってすばらしい」】へ続く
※週刊朝日 2020年11月27日号より抜粋