オカダは5年前の引退試合のときは俺のファンに囲まれてアウェー状態だったけど、今回は「引退試合で天龍を介錯してくれたオカダ、よくぞ来てくれた!」という感じで歓迎されていたね。天龍プロジェクトの興行に新日本プロレスのトップレスラーが来てくれたこともあって、その漢(おとこ)気に彼のファンがまた増えたんじゃないか。当日は新日本プロレスの試合が名古屋であって、すぐに現地に行かなきゃいけないから本当は最初にトークバトルをする予定だったんだ。でも向こうの試合編成が変わって、時間に余裕ができたおかげでメーンイベントにすることができた。試合があるにも関わらずオファーを受けてくれたオカダには感謝だよね。やっぱり、プロレスという共通のエンタメがあると、誰としゃべってもいい回答が出るもんだね。オカダもそつなく、リズムよく答えていたし、『クイズダービー』の大橋巨泉と北野大さんの問答にも負けていなかったんじゃないか。って懐かしいこと言うだろう(笑)。
興行全体を振り返ると、コロナ禍の厳しい状況でもお客さんが集まってくれたことにまず感謝しているよ。プロレスが低迷していた頃も、今のような状況でも応援してくれるファンがいるのはすごいことだ。俺のイメージではプロレスファンは偏屈だけど愛情がある、昔のちゃぶ台をひっくり返すオヤジのような感じ。プロレスファンはプロレスラーになるヤツよりもよっぽど不思議な人が多いよね(笑)。
また、他団体から参加してくれた選手たちをケガ無く、送り返せたことになにより安心している。団体の大事な選手をお借りして、ケガをさせてしまうのは恥だからね。俺の引退試合のときに女房から「試合が終わったら自分の足でちゃんと歩いて帰って来てね」と言われたけど、そのときは「何を言っているんだ??」という感じだった。でも引退してほかの選手を預かる立場になってようやくその意味がわかったよ。こんな気持ちだったんだね(笑)。
代表とも話したけど、天龍プロジェクトとして、今後も興行をやっていきたいと思っている。プロレスラーの収入は「1試合いくら」という世界。興行が増えれば、その分だけレスラーが潤うということになる。「天龍は引退したくせにまだ興行をやるのか」と思う人もいるかもしれないけど、なるべく後輩のプロレスラーの収入になればいいと思っているんだ。だから、ファンの皆さんはこれからもどうか応援をよろしく!
(構成・高橋ダイスケ)
天龍源一郎(てんりゅう・げんいちろう)/1950年、福井県生まれ。「ミスター・プロレス」の異名をとる。63年、13歳で大相撲の二所ノ関部屋入門後、天龍の四股名で16場所在位。76年10月にプロレスに転向、全日本プロレスに入団。90年に新団体SWSに移籍、92年にはWARを旗揚げ。2010年に「天龍プロジェクト」を発足。2015年11月15日、両国国技館での引退試合をもってマット生活に幕を下ろす。