■甲州街道沿いの現場

 渋谷行きの最終バスは平日が午後10時44分、土日祝日は午後10時24分だ。この日、新型コロナの全国の感染者数が4日連続で過去最多を更新。東京を含む複数の都道府県でも過去最多を更新した。

 午後10時すぎ、新宿方面から甲州街道沿いを歩くと、ほぼ満員の客でにぎわう飲食店とがらんとした飲食店が対照的なコントラストを浮かべていた。現場のバス停付近にはほとんど飲食店がない。最終バスを見送ると、歩道を行き交う人はまばらになった。

 一方で、甲州街道の車の往来や、頭上を覆うようにそびえる首都高4号新宿線の高架の振動音は途切れることがない。人の気配が消えても都市の喧騒は続く。そのことが大林さんの安堵につながったのだろうか、とふと思った。

 午後11時すぎ。近くの飲食店の店主らしき男性が通りかかった。休業日だが、たまたま店に用があったという。この男性(43)に声をかけると、立ち止まって話してくれた。

「女性がここ(バス停)で夜を過ごしているのに気づいたのは夏ごろからですね。午前1時すぎに来て、朝5時ぐらいになったらいなくなります」

 コロナ禍が大林さんの生活パターンを変える要因になったのだろうか。

 男性は閉店から後片付けが終わって帰宅するまでの時間帯がちょうど、大林さんのバス停での滞在時間と重なっていたという。ただ、会話を交わしたことはない、と言った。

「静かに座っているだけ。たまにご飯を食べて、座ったまま寝る。電車の座席で寝るのと同じです。とにかく仮眠をとりたいという感じでしたね」

 半透明のビニール袋の中に入れた食料を素手でつかんで食べる様子が印象に残っているという。キャリーバッグは2種類。手ぶらの日もあった。

「暑いときはずっと同じTシャツ姿でしたが、最近は上着を羽織っていました。靴も最初はスニーカーだったのが、そのあとハイカットになって。いっけんホームレスには見えません。毎日来るからホームレスだとわかりました。最初の頃は事情があって夜だけ家にいられないのかなとも思いました」

 自宅といえるのかどうかはともかく、大林さんには別に生活拠点があったようだ。

 厚生労働省の実態調査によると、女性のホームレスは全体の約3%。夜間に性的被害に遭うリスクもある。大林さんにとってバス停はシェルター代わりだったのではないか、と思った。

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22センチのバス停ベンチで仮眠