■22センチのベンチで仮眠

 出頭した容疑者が「痛い思いをさせればあの場所からいなくなると思った」と供述していることについて、男性はかぶりを振りながらこう話した。

「あの人に対してどいてほしいと思うことなんてないでしょ。目の前にいてもまったく目障りじゃないですから。そもそもコロナ禍の今は特に、この辺は深夜に人はほとんど通らないですよ」

 夜明けまでの4時間。人知れず訪れ、人知れず去って行く大林さんは誰の邪魔にもなっていないと言う男性の言葉に深くうなずくしかなかった。

 大林さんが仮眠に使っていたバス停のベンチの奥行きは22センチしかない。ひんやりとする木製ベンチに浅く腰掛けてみた。背後の透明な仕切り板に背中を預けようとすると、腰のあたりに出っ張った鉄骨が当たって痛い。おのずと前かがみの縮こまった体勢になる。

 日中は20度を越えたが、深夜から明け方は一ケタ台の気温になった。すぐに足元から冷えてきた。このままだと確実に風邪をひく。1時間足らずで音を上げ、一晩を過ごすのは到底無理と悟った。

 足元にはイチョウの落ち葉がアスファルトの路面を彩っていた。目の前には無機質なビルの壁。入り口付近の天井に取り付けてある防犯カメラが犯行を捉えたのだろう。歩道の街灯には「TOKYO2020」のフラッグが寒風にそよいでいた。(文/編集部・渡辺豪)

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