もっとも警戒レベルが高かったはやぶさ2の管制室
「われわれが初めて直面すると事態というか、世界中の(宇宙関係者の)みなさんにとっても初めての経験。どう対応していいかわからない部分がたくさんありました」
津田さんがこう語ったのはJAXAとオーストラリア宇宙局が共同声明で帰還予定日を発表した7月14日だった。
それゆえに、「回収計画作成にかなり時間がかかったという経緯がございます」。
津田さんは記者会見で慎重に言葉を選びながら話をつなげた。
「はやぶさ2のカプセル帰還に向けて日本からオーストラリアに回収隊員を派遣します。新型コロナの状況を踏まえて、きちんと両国の誓約に適合したかたちで作業を進める必要があります」
ミッションマネジャーの吉川真さんによると、新型コロナへの警戒感が高まったのは今年2月下旬。なかでも、もっとも警戒レベルが高かったのは、JAXA宇宙科学研究所内にあるはやぶさ2の管制室だ。
「ここから探査機に指令を送ったり、データを受け取るんですが、もし、管制室で感染者が発生してしまうと、探査機の運用ができなくなってしまう」
管制室の人数をそれまでの半分の3、4人に減らす対策をとった。
「密を避け、マスクをして、手洗いとアルコール消毒する。やっていることみなさんと同じなんですが、かなり徹底した感染症対策を行いました」
「最後の一歩」が当初、思っていたよりも難しくなった
しかし、なんといっても新型コロナの影響が大きかったのは帰還カプセルが着陸するオーストラリア側とのやり取りだったという。
「この事態がなければ、現地に行って直接、議論をしたり、事前の準備を進める予定だったんです。それがいっさいできなくなってしまった。もちろん、オンラインで議論はしているんですけれど、やはり、細かいことを打ち合わせるには面と向かって――それがいちばんの痛手でしたね」
現在もオーストラリアは海外からの入国を原則禁止している。国際線もほとんど運休。3月以降、このような状況がいつまで続くか、まったくわからなかった。
しかし、だからといって探査機の飛行を止めることはできない。
「『最後の一歩』が当初、思っていたよりも難しくなったという状況です。しかし、一歩一歩確実に進んでいる、という実感があります」
津田さんはそう言って、控えめに自信をのぞかせた。
(文・米倉昭仁)
【小惑星探査機「はやぶさ2」帰還へ(後編) コロナ禍のカプセル回収計画の全容】へ続く