■平昌の夢よもう一度
だが、18年4、5、9月と南北首脳会談は実現したものの、国連制裁などに阻まれ、経済支援が得られない北朝鮮が激怒。今年6月に南北共同連絡事務所を爆破し、南北間の対話の窓を閉めてしまった。「何としてでも、もう一度南北首脳会談を」というのが、文政権の合言葉だが、見通しは明るくない。
そこで、文政権の人々が目をつけたのが来年夏の東京五輪だ。朴智元国家情報院長も金振杓氏も、菅首相との会談で東京五輪に言及。五輪で日韓首脳会談や日韓朝首脳会談もできるという構想をぶち上げた。金氏は韓国に戻った後、韓国メディアのインタビューに、日本が金正恩氏を五輪に招待する可能性があるとも言及した。
要するに「平昌の夢よ、東京でもう一度」あるいは、「2匹目のドジョウを東京で」と狙っているわけだ。もちろん、核・ミサイル問題に進展がないなか、金正恩氏が訪日を決める可能性はほとんどゼロに等しい。東京五輪そのものだって、新型コロナウイルスの感染拡大によって開催自体が危ぶまれている。
そのあたりの詰めが甘いのは間違いないが、日本にとって悪い話でもない。東京五輪で夢を実現するためには、日韓関係の改善、すなわち徴用工問題の解決が避けて通れないからだ。現在、韓国の外交安保を指揮する韓国大統領府の徐薫(ソフン)国家安保室長は、前任者の鄭義溶(チョウウィヨン)氏と異なり、日韓関係改善に積極的だ。11月17日に日米韓NSC協議のため訪日する予定だったが、米側の都合で中止になった。それでも、徐氏は訪日したい考えを捨てていないという。今度こそ、文大統領が徴用工問題で政治決断を下すことになるのかもしれない。(朝日新聞編集委員・牧野愛博)
※AERA 2020年12月7日号