■バイデン氏にアピール
二つ目が米大統領選でのバイデン前副大統領の勝利だ。バイデン氏が支えたオバマ政権は日米韓協力を重視。日韓GSOMIAでも、渋る当時の朴槿恵(パククネ)政権を繰り返し、説得した経緯がある。国務長官に指名されたブリンケン元国務副長官自身も、日米韓外務次官級協議に何度も参加した経験を持つ。
韓国の政界関係筋によれば、韓国政府はバイデン政権が来年1月に誕生すれば、米国が日韓関係の改善について強い圧力をかけてくるだろうと予測。日本に対して融和的なメッセージを発信している背景の一つには、バイデン政権から「日韓関係改善に向けた努力をサボっている」と、痛くもない腹を探られないようアピールする狙いもあるという。
ただ、この二つの理由だけではいかにも弱い。日中韓首脳会議にしても、韓国は年末までの開催を目指しているが、実現できなければ、議長は翌年に持ち越しになる。韓国として、会議をやるまで議長国でいられるわけで、別に焦る必要もないだろう。
では、徴用工判決に基づく、日本企業の現金化を恐れているのだろうか。いやいや、文在寅政権はそこまで日韓関係を重視していない。文政権の支持者は歴史認識問題などに厳しい態度を示す人が多い。文政権は最近、ソウルの不動産価格高騰や秋美愛(チュミエ)法相を巡るスキャンダルなどで、無党派層や若者層の支持が離れたとされ、従来の支持者を固める必要に迫られている。来春には、22年の大統領選を占う試金石と言われるソウル、釜山両市長選もある。無理に日本ににじり寄る必要はどこにもない。
唯一、日韓の関係者らが「この理由に違いない」と一様にうなずく理由がある。
南北関係だ。文在寅政権は南北関係の改善に異様なまでの執念を燃やしてきた。18年2月の平昌冬季五輪では、開会式に金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長の実妹、金与正(キムヨジョン)党第1副部長らが訪韓。文大統領らは「朝鮮半島に平和がやってきた」と大喜びで宣伝した。