大震災に伴う福島第一原発事故から、もうすぐ2年になろうというのに“加害者”である東京電力の損害賠償手続きは一向に進んでいない。福島第一原発から70キロほど南にある蛭田牧場(福島県いわき市)の蛭田冨行さん(75)、幸広さん(45)親子は、廃業の危機に瀕している。東電に補償を求めたが、年が明けた現在も具体的な進展はない。ジャーナリストの桐島瞬氏は、その実態を調査した。

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「東電に補償を求めたのは昨年6月です。福島在勤の担当者が何度か自宅に来て、話を聞いていきました。ですが、東電本社の対応がまだ決まらないということで、いまだに金額の話にすらならないのです。おまけに、休業しないよう努力しているところを見せろという。いったい誰のせいで、こんなことになったのか」(冨行さん)

 畜産農家への補償が遅れているのではないか――と本誌が質したところ、東電はこう答えた。

「畜産農家への賠償に指針はなく、県単位で協議会を設けて全体交渉をするのが基本です。個別交渉の場合には、営業損益の被害額を確認したうえで賠償します。手続きが遅いというご指摘には、なるべく速やかに補償するようにします」

 もっとも、こうした対応の遅さは珍しくないと言うのは、国と東電を相手に福島原発事故の民事責任を問う原告団を立ち上げた弁護士の一人、馬奈木厳太郎氏だ。

「東電は当初、賠償請求書をそのまま被災者に送り返していました。私たちが経済産業省や文部科学省などに東電の態度を是正させるよう申し入れたところ、ようやく請求書を受け取るようにはなりましたが、返事をまったくしない放置状態がいまでも続いている。非常に対応が遅いのです」

 東電は、原油輸入価格の上昇などを理由に、3月分の家庭向け電気料金を値上げする。この半年で2度も料金を上げておきながら、被災者への賠償は一向に進んでいない。

週刊朝日 2013年3月1日号

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