春風亭一之輔・落語家
春風亭一之輔・落語家
イラスト/もりいくすお
イラスト/もりいくすお

 落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「健康診断」。

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「出版業界はなぜかこの時期が多いんですよ」と担当K氏からお題のメールが届いた。今週は『健康診断』。あー……「業界」ということは、会社単位で『健康診断』があるということですか。カタギの皆さんは。

 フリーの稼業からすると非常に羨ましいです。一般社団法人落語協会に所属はしているが、今のところ健康管理は完全に噺家の自己責任。落語協会でも協会の予算から費用を出して集団健康診断をやればいいのに、と思う。若い頃からの不摂生で亡くなる噺家は多いのだから、無理矢理にでも協会員全員に受けさせる意義はあると思うのだがなぁ。

 案外と臆病者が多いから嫌がる人もいるかもしれないけど、「大病が見つかったら金一封!」とか餌をぶら下げたら、みんな我も我もと胃カメラをのむかもしれない。「芸人たるもの、酒のためなら身体なんかどーでもいいんだよっ!」なんて先輩もまだいるが、もはやそんな時代じゃないです。長生きしてくださいよ。まぁ、その人は酒飲んだあとにいつもウコン飲んでるけど。身体、気にしてる。

 私は真打ちに昇進した平成24年から自主的に年1回、人間ドックに行くことにしている。家族もいるし、いま死んだらちょっと困る。自分の体調がわかっていたほうが、安心して酒が飲めるというやつです。数値が悪かったら「どれくらいまで落とせばお酒飲めますか?」と聞くようにしています。人間、目標があれば努力するものです。

 眼圧を測る検査。あれが好きだ。検査台に顎をのせて、片目でレンズらしきものを覗く。「目を開けててくださいねー」と言われるやいなや、突然「パシュッッッ!!」と目に風を吹きつけられるあれ。今まで何の検査なのか知らずに受けていたが、あれは緑内障を調べるためにやるそうです。正直、理由なんてどうでもいいよ。日々の生活で「眼球にピンポイントの風を受ける」ということはまずないので、なんか愉快。絶対目を瞑っているはずなのに、毎回「はい! OKです!」と言われるのはなぜなのだ。「もう一回」と言われたい。「ちゃんと開けててくださいっ!」と怒られたい。わざと目を瞑るのは嫌なのだ。勝負していつも勝ってしまうのは不思議。

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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