「M-1グランプリ2019」の覇者ミルクボーイ(C)朝日新聞社
「M-1グランプリ2019」の覇者ミルクボーイ(C)朝日新聞社

 日本一の漫才師を決める漫才の祭典『M-1グランプリ』は、最も注目度の高いお笑いコンテストであると同時に、最も厳しいお笑いコンテストでもある。

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 決勝の舞台で活躍すればスターになれるが、失敗すると悲惨な目にあうこともある。たとえ決勝まで勝ち上がった実力者であっても、その場の空気をつかめずに終わると、敗者の烙印を押されてしまう。出場する芸人にとってはイチかバチかの大舞台なのだ。

 その点、昨年末に行われた『M-1グランプリ2019』は、奇跡のような大会だった。決勝に進んだ10組それぞれが安定した笑いを取り、大会は大いに盛り上がった。

 ミルクボーイ、かまいたち、ぺこぱの上位3組はこれを機にスターへの階段を駆け上がっていき、オズワルドやすゑひろがりずも知名度を一気に向上させた。

 最下位に終わったニューヨークでさえも、点数発表後の悔しがり方が面白いと評判になり、そこからテレビ出演の機会が増えていった。昨年の『M-1』がいつになく盛り上がったので、今年も世間ではそれを期待する声が大きい。

 しかし、残念ながら、昨年並みに盛り上がることは難しいのではないか、というのが現時点での私の予想である。もちろん、『M-1』の決勝が面白くなかったことなどないし、今年も順当に面白いだろうとは思うのだが、昨年のような並外れた盛り上がりを期待してはいけないと思うのだ。

 その理由は、今年の『M-1』は「コロナ禍」という特殊な状況のもとで行われるものだからだ。緊急事態宣言中にはお笑いライブはすべて中止になり、その後もなかなか再開されなかった。

 再開されてからも、観客席の数やライブの本数は激減し、芸人が例年通りのペースでネタを作ったり演じたりすることが難しい状況が続いている。

 本来ならば、芸人は生の舞台でネタをかけて、観客の反応をチェックする。しかし、現状のお笑いライブでは、客席の間にはスペースが空いていたりするため、一体感のある大きな笑いが生まれにくいし、観客全員がマスクをつけているせいで笑い声のボリュームも小さくなる。正確なウケ具合を確かめることも容易ではない。

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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なぜ毎年あれほど盛り上がるのか? そして今年は