『M-1』がなぜ毎年あれほど盛り上がるのかというと、出場する芸人がこの大会に向けて1年かけてじっくりネタを作り込むからだ。同じネタを何度も舞台にかけて、反応を見てネタを作り変えたり、間を調整したりすることで、『M-1』で勝負するための漫才が完成する。

 今年はほとんどの芸人がその過程を経てネタを仕上げることができなかった。そのため、どうしても例年に比べると全体的なネタのクオリティはやや下がってしまう。もちろん、素人目に見てわかるほどの大きな違いではないかもしれないが、その差は確実に存在するはずだ。

 12月2日、漫才日本一を決める『M-1グランプリ2020』の決勝メンバーが発表された。決勝に駒を進めたのは、アキナ、マヂカルラブリー、見取り図、錦鯉、ニューヨーク、おいでやすこが、オズワルド、東京ホテイソン、ウエストランドの9組。ここに敗者復活戦の勝者1組を加えた10組が、12月20日に行われる決勝戦に挑むことになる。

 今年の決勝メンバーの特徴は、吉本興業所属ではない芸人(非吉本芸人)や「コンビの2人とも関西出身」というわけではない芸人(非関西芸人)が多いことだ。非吉本芸人は3組、非関西芸人は7組である。過去の大会では、吉本芸人や関西芸人が大半を占めることが多かったため、これは異例のことだ。

 こういう結果になったのもコロナの影響があるような気がする。というのも、吉本興業は自社で常設の劇場を持っているため、吉本芸人は他事務所の芸人よりもライブに出る回数が多く、ネタを磨きやすい環境にあった。

 また、特に関西の吉本芸人は、いくつかある大阪のテレビ局主催のお笑いコンテストなどでもネタを磨いているため、戦い慣れていて『M-1』でもずっと優勢だった。

 だが、今年はコロナ禍のせいで誰もが十分な舞台数を経験することができず、『M-1』に出る漫才師が良くも悪くもフラットな状態で競い合うことになった。

 そのため、例年よりも吉本や関西の優位性が少なくなり、結果として非吉本・非関西の芸人が決勝に進むことになったのではないか。

 準決勝の戦いを見ていた限りでは、コロナ禍という危機の中にあっても、芸人たちの漫才の面白さは例年よりそれほど劣っているという印象は受けなかった。

 昨年の『M-1』では、予選の時点で「ミルクボーイが優勝しそうだ」という前評判があったが、今年はそのような飛び抜けた芸人は見当たらない。本命不在の熱戦が期待できそうだ。(お笑い評論家・ラリー遠田)

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