「女性は離婚後も、低賃金の仕事を掛け持ちするなどして高齢になるまで切り詰めた生活を送り、そのために体調を崩す人が多いのも特徴です」
自らも路上生活を送り調査研究に当たった経験のある丸山さんは、路上には危険が多く、女性は路上生活者になるのは難しい、と話す。
「暴力の危険は男性ホームレスとは異なる重みがあります。暴力に遭うかもしれないという不安や恐れも女性のほうが強い。大林さんがバス停のベンチで夜を明かしていたのも、他の場所には居づらい理由があったのでは」
女性ホームレスは、男性よりも精神疾患を抱えている比率が高いのも特徴という。この場合、対話を拒んだり状況をうまく整理できなかったりして生活保護の受給資格があっても活用できていないケースもある。受給資格がないとの思い込みや、身内に連絡がいくのを避けたいと考え敬遠する人も少なくない。だが、女性であれば使える制度は他にもある、と丸山さんは言う。
「たとえばDV防止法の枠内で、緊急保護してもらえる制度もあります。大林さんもうまく支援につながれば、路上生活から逃れる手立てを見つけることはできたと思います」
事件現場から数キロしか離れていない都庁の地下では、「もやい」を含む民間支援団体が定期的にホームレスへの支援物資の配布や相談会を開いている。しかし、大林さんは支援の網からもれてしまった。このことに前出の大西さんは忸怩たる思いを抱えている。
「大林さんのように所持金が8円という切羽詰まった状況に追いやられた人が今夜もバス停や路上にいるかもしれない。そう考え、気づいた人が声をかけ支援につなげてほしい」と訴える大西さんは、困窮者にこう呼び掛ける。
「私たちは今、コロナ禍という世界的な災害の渦中にいます。一人で乗り越えられないのは当然です。症状が軽いうちに病院に行ったほうが早く治るのと同じで、自助努力で頑張ろうとしないで公的機関でも民間支援団体でも遠慮せず早めに相談に来てください」
(編集部・渡辺豪)
※AERA 2020年12月14日号