■「排除アート」の影響で不可視化された困窮者

 ホームレス排除を具現化したとも取れるのが、いわゆる「排除アート」だ。目的外の利用を防ぐようデザインされた公共空間の建造物を指す。

「大林さんが仮眠に使っていたバス停のベンチもそうですが、都心部では寝転べない構造のベンチが圧倒的に多くなり、そこに身を寄せていたホームレスの人が居づらい環境や空気を醸すツールになっています」(大西さん)

 実際、ホームレスの居場所は少なくなっている、と大西さんは言う。

 19年の国の調査では全国のホームレスの数は前年度比8.5%減の4555人。近年は減少傾向にある。これはホームレスの自立を支援する法律や基本指針の制定、民間支援団体の活動の成果に加え、「排除アート」の普及によって街中で野宿しにくい環境がつくられたことも一因だと大西さんは見る。

「野宿者を街で見かける機会は減りましたが、困窮者が不可視化されたと捉えるべきでしょう」

 08年のリーマン・ショック時は、地方の寮に住んでいた人が「派遣切り」と同時に野宿生活に陥るケースが目立ったが、今は様相が異なるという。

 都内のネットカフェなどで寝泊まりしながら生活する人は18年の調査で1日約4千人。コロナ禍でこれらが休業し、路上生活に陥る人も増えている。

 また、今年7月の総務省の調査では女性就業者は前年同月比で54万人減少、24万人減だった男性の2倍強に上った。女性が多い非正規労働者への影響が大きいことが背景にある。女性は「隠れたホームレス」になりやすい、と指摘するのは女性ホームレスに詳しい京都大学大学院の丸山里美准教授だ。

「国の調査では路上生活者に占める女性の比率は3~5%ですが、ネットカフェや格安ホテルを転々としたり、シェアハウスや友人宅に居候したりしているホームレス状態の人も含めると女性の比率はぐんと上がるはずです」

■女性の路上生活者には男性とは異なる「不安」も

 女性の貧困は、もともと世帯の中に隠されているため見えにくいとされる。DVで困っていても経済的自立が困難なため、なかなか離婚に踏み切れないケースもある。

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