「大林さんは勤務先でのトラブルで、私が登録している会社からは春先に仕事を受けられなくなっていました。もしかすると、コロナ禍で他の登録会社でも対面型の試食販売の仕事ができなくなったのでは」
追悼のためバス停を訪れた日。女性は金具で仕切られたバス停のベンチに座った。表面がツルツル滑り、深く座ると足が地面に届かなかった。
「私と同じくらいの身長の大林さんが、どうやって座っていたのかと驚きました。よほど疲れていない限り、あのベンチでは眠れません」
女性が花とともに供え物に持参した乳酸菌飲料と菓子パンは、大林さんが試食販売でよく扱っていた商品だ。
「最後にスーパーで見かけたとき、大林さんは乳酸菌飲料の試飲を小さな男の子に勧めていました。若いパパとチビっ子に試飲を渡して楽しそうでした。別れるとき、男の子に手を振っていました。大林さんが働いていた証しに、と心を込めて置きました」
事件から5日後、傷害致死容疑で逮捕されたのは、近くに住む46歳の男だった。
NPO法人「自立生活サポートセンター・もやい」の大西連理事長が、2014年に都内の支援団体と連携し、約350人の野宿生活者を対象に実施したアンケートでは、約4割の人が襲撃を受けた経験がある、と回答した。殴る、蹴るといった暴力のほか、花火を打ち込まれたり、ペットボトルやたばこの吸い殻を投げ込まれたり、水をかけられたりと被害は多岐にわたる。
「若者や子どもが、友だちにはできないこともホームレスの人にはやってもいいという意識が働いて行動がエスカレートしてしまうケースが主でした。今回、近隣の大人が暴力に及んだのは、弱い立場の人を差別するまなざしが社会に浸透している現実を象徴的に示すものだと思います」
そう話す大西さんは、ホームレスが「迷惑な存在」という記号のように扱われている、と感じるという。
「当たり前のことですが、ホームレスの一人ひとりにも名前があり、人生があり、殴られれば痛い。しかし相手がホームレスだと認識した瞬間、生身の人間であるという想像が働かなくなる。これは深刻な差別です。外国人や障害者、セクシュアルマイノリティーなどにも波及していくのを恐れています」