「私、税金の支払いをためてしまって。延滞金を請求されているので少しずつ払ってるんです。いまバイト代もらったからコンビニに払いに行ってきまーす」
おどけるような口ぶりだった。
“紙切れ”は役所から届いた税金の振込用紙だった。女性によると、当時の日払いのバイト代は7千円。単発の日雇い仕事のため当日キャンセルも多い。しかし、文句を言うと仕事を回してもらえなくなるので泣き寝入りすることがほとんどだという。
「大林さんが『あれもこれもキャンセルされて、もう生活できません』と登録会社の窓口で訴えるのを聞いたこともあります。そんなギリギリの生活でも、大林さんは納税の義務を果たそうとしていたんです」
大林さんの身なりが変化したのは約3年前。ウエストポーチとキャリーバッグが必携になり、ジャージ姿でバイト代を取りに来ることもあった。
「家賃を滞納し、ある日突然、鍵を替えられて入れなくなり荷物も外に出されていたそうです」
■弱い立場の人を差別するまなざしが社会に浸透
大林さんはこの頃、ホームレス生活を強いられたとみられるが、茶目っ気たっぷりにこう振る舞ったという。
「『アパートを追い出されたんです、フフ』みたいな感じで陽気に話しておられました。ホームレスというと悲惨な弱者というイメージかもしれませんが、大林さんはまったく違うんです」
女性は、大林さんが「職業不詳」と報じられることに心を痛めている。
「日払いの仕事とはいえ少なくとも3社に登録して掛け持ちし、ずっとフル回転で働いていた大林さんが『職業不詳』では可哀そうです。大林さんは長年たくさんの方に試食を提供し、たくさんの方と会ってきたのです。決して怠け者ではなかった」
女性は他にも、大林さんの「変化」を感じ取っていた。
「長期間の困窮生活で追い詰められ、精神的に不安定になってしまったように思えることもありました」
大林さんは今年春から夏にかけて現場のバス停で夜を明かすようになった。女性には思い当たる節があるという。